はっきり言う。去年、高橋宏斗は戦力ではなかった。
一軍登板ゼロ。二軍で14試合0勝5敗、防御率7.01。勝利への貢献はほとんどなく、6月には右肘を痛め、離脱した。「なんで同じ地元の栗林(良吏・広島)ではなく、高橋を指名したんだ」という声も聞かれた。本人も唇を噛む。
「本当に打たれてばかりで、全く通用しませんでした。悔しかったです。150キロを投げても打ち返される。ショックでした」
「もっと福谷さんから学びたいと思ったんです」
転機は去年の秋季キャンプだった。
「たまたま、ナゴヤ球場のトレーニングルームで福谷(浩司)さんと一緒になったんです。いくつかトレーニングを教えてもらいました。その時、僕ができた時とできなかった時の違いを分かりやすく説明してくれたんです。福谷さんは感覚で言わない人。細かく言葉で伝えてくれます。あまり理解力がない僕でもスッと入ってきました。それでもっと福谷さんから学びたいと思ったんです」
すぐにオフの自主トレに同行させてほしいと頼んだ。福谷は快諾。三重県津市のみどりクリニックに通い始めた。
「主に可動域を広げたり、柔軟性を高めたり、体の使い方を覚えるエクササイズ系のトレーニングです。ダンベルも1、2キロ。今もそれを継続しています。練習前のアップで12種目を30分かけて毎日、練習後は17種目を3日に1回のペースで1時間かけてやっています」
効果はフォームの変化に出た。
「実は変えようとは思っていなかったんです。でも、自然と変わりました。一番は左足が着地した際に右腕がトップに入っている点。去年は全然間に合っていませんでした。だから、腕を無理やり振る形になって、肘を痛めたんです。今は負担のない投げ方だと思います」
ボールも変わった。
「(ホーム)ベース上での強さが違います。キャンプ中もブルペンキャッチャーの三輪(敬司)さんや前田(章宏)さんに強くなったと言ってもらえました。実際、回転数もかなり上がっています」
高橋宏は手ごたえを掴んでいく。2月3日のストライクテストでは30球中24球がストライク。最後は15球連続で審判の右手が挙がった。
「ベストコンディションでした。あの日はゾーンに入っていました。マウンドからキャッチャーミットまでラインが見えたんです。おそらくあのまま10球投げていても、ストライクだったと思います。この感覚は高校時代に数回あったんですが、プロでは初めてでした」
それでも高橋宏には不安があった。
「僕はコントロールを乱して崩れるのではなく、ボールが真ん中に集まり過ぎて滅多打ちを食らうタイプ。ブルペンでストライクを取る自信はありましたが、バッターを抑えられるかは不安でした」