僕が立浪和義監督に伝えたこと
実は入院する直前、取材で立浪和義監督とお話しする機会がありました。ちょうど、石川昂弥選手が、左膝前十字靭帯不全損傷と診断された直後のことです。
心配で真っ先に「昂弥選手は大丈夫ですか?」とお聞きしたところ、「完全には切れてないらしいわ」とお話しされていました。「不全損傷」の「不全」とは「どこまで切れているのかわからない」という意味なので、立浪さんもまだよくわからなかったのだと思います。「僕も実は前十字靭帯が切れていて……」とお伝えしたところ、「それは放っておいたら治るんか?」と聞かれたので、「前十字靭帯は自然治癒しません」と答えました。
僕は高校3年生のとき、サッカーの試合中にプレーヤー同士激突して、右膝の前十字靭帯を損傷しました。えげつない痛さだったのをよく覚えています。
病院では先生から「手術するなら1年間はリハビリに費やさなければいけないし、その間は運動もできない。保存療法なら本格的なスポーツの道は目指せないが、多少グラグラはするものの日常生活に支障を来すほどではない」と言われました。先生が薦めたのは保存療法です。僕は肩を痛めて野球を断念していたので保存療法を選びました。18歳の僕にとって、1年間運動ができなくなるのは辛いことだったんです。
そのまま2~3カ月安静にして、膝は元通り動くようになりました。だけど、その後、大学のサッカー部でプレーしたり、芸能の世界に入ってライブをしたり、『筋肉番付』のようなスポーツのお仕事をさせていただく中で、膝への不安はなくなりませんでした。痛みも出るようになっていました。
そして、今年のある日、普通のジャンプをして着地したとき、右膝だけが負けてガクッと崩れ落ちてしまったのです。「あ、切れたな」と思いました。激痛で立つこともできず、この日はメンバーの本田(剛文)くんに一日中おんぶしてもらって、なんとかロケは終了。そして、手術をすることになったんです。
僕はずっと後悔し続けてきました。あのとき手術をしておけば、膝の不安を12年も抱えずに生活してこられたのに、と。石川昂弥選手には同じ思いをしてもらいたくありません。
石川昂弥選手は、今が一番頑張らなければいけないときだと自覚していると思います。だからこそ、無理をしてしまうんじゃないかと心配でした。保存療法を選べば、今シーズン中に復帰できたかもしれない。だけど、無理は後悔につながりかねません。そのことは、後悔し続けてきた僕が一番知っています。
立浪さんに僕が意見を言うことなんてまずありませんが、今回は初めて「遠回りになるかもしれませんが、手術をしたほうがいいと思います」とお伝えさせていただきました。プロの世界の人たちに対して僕が何か言うのなんて本当におこがましいですし、言うかどうかも悩みました。だけど、膝の前十字靭帯を切った経験のある人はあまりいません。僕の経験が何かの役に立てればと、思いきってお伝えすることにしました。立浪さんも「おお、そうか」と受け止めてくれて、「専門家の意見も踏まえた上で慎重に考える」「彼にとって一番良い選択ができるよう全力でサポートする」と返事してくれました。
リハビリは大変です。僕は入院中、毎日4時間のリハビリをしていました。4時間ずっと痛いんです。辛いリハビリの最中は、草野球で活躍しているところをイメージして、「野球やりてぇなぁ!」とモチベーションにしていました。
以前、ヤクルトの館山昌平選手を名古屋のジムでお見かけしたことがありますが、右腕を中心に黙々と細かな筋トレを1時間以上やっていらっしゃるのを見て、リハビリって本当に大変なんだと実感しました。一方、リハビリを通して、課題を見つけてクリアする力が養われますし、苦しい時期を乗り越えることで人間としても成長できると思います。立浪さんも現役の頃に大きなケガをされて、自分自身を見つめ直したそうです。
石川昂弥選手には来年、心身ともにパワーアップした状態で戻ってきてもらいたいです。今後ドラゴンズを支える太い軸になってもらうために、この期間が彼にとって財産だったと言える時間になればいいと思いますし、彼ならそういう時間に変えられると期待しながら応援したいと思います。頑張れ! 昂弥君!
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