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気持ちのよい応援とは…神宮球場のお立ち台に31年間立ち続けた男のこだわり

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/18
note

先輩の「そのうちわかるよ」の意味

 かっこいいな、マネしたい。でもそのためには、選手の特徴を知らないと応援できないな、と思って試合前練習を見に行ったり、2軍球場に行ったりしていたある日の神宮。(すでに引退された)すごく足の速い選手が牽制で1塁に滑り込んで戻った時、たまに帽子を直す仕草がちょっと違うときがある……(なんだこの違和感……)何度か見ているうちにわかったんです。この選手は直す帽子を持った腕の肘が曲がっていると次は走らない、次の球で走る気のある時は、肘が伸びて一度帽子を高い位置にもっていってから被りなおす。

(そうか、言ったとおりになるんじゃなくて、そうなることを言えばいいのか。それが試合の流れで応援するってことなのか)

 それがわかった後は、高い位置に帽子が上がった時を狙って「走れ走れ」コールをする。(わかっているけど)走る。セーフ。ファンの言った通りになり、いつも以上に盛り上がる。

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 試合の流れで応援するってことがわかると、「ここ!」というタイミングがわかってくる。

「ホームランにするから待って!」山田哲人のファンファーレに込めた願い

©佐々木誠

 山田哲人選手のある打席。言語化するのは難しいのだけど、凄く、もの凄く打ちそうな試合の流れで「これはホームラン」という確信に近いものがあったので、私も一つ勝負に出ました。

 相手投手が投球までに前にかかる秒数は前のイニングで数えていましたから「さあ、ここはファンファーレに乗せて綺麗なホームランを打ってもらおう!」って声をかけて伏線を張り、山田選手のファンファーレ(前奏)に……いかない。トランペットに合図を出す姿勢だけして、あれ?って顔をしてるお立ち台の周りのファンに「ホームランにするから待って!」ってもうひと声かけ……ほんの少し時間を稼いで、はい今!と、合図してトランペットをスタート。

 ファンファーレの間に投手がマウンド踏んで投球モーション開始、投げる。ファンファーレ部分が終わった瞬間にベース上に到達するように調整したボールは山田選手が捉えてファンファーレから応援歌に切り替わる(ドンドンドン)と手拍子3回のタイミングできれいにレフトに消えていきました。綺麗に決まったこの瞬間は今でも思い出します。ただただ快感です。

 そんな、あくまで「試合の主役」である選手が作り出す試合の流れを、綺麗に化粧するような応援を目指し続けてきた31年間でした。

 すみません。ずいぶんと長く昔話をしてしまいました。

つらいとき、ファンが選手に期待するように、選手もファンに期待している

 私はもう、あの場所に立つことは無いと思いますが、スワローズは今、大変な時期になってしまいました。(こんな時こそ応援したいと思うのですが……)そんな中で選手も頑張っていますが、結果が出なかったり、どうしても辛いとき、最後に選手が頼るのはファンしかいないのです。

 ファンが選手に期待するように、選手もファンに期待しています。ファンのいつもより大きい拍手が1つあったら、ボールに飛びつく選手の一歩が大きくなって、落ちそうなボールがグラブに入るかもしれない。打者の振りに力が入って、あと5cm打球が伸びてホームランになるかもしれない。

 どうか選手の「勝つための努力」へのアンサーとして「勝つ雰囲気」を作ってあげてください。その相乗効果が、スワローズ独特の空気として長年紡いできた歴史なのだと思います。

 今年応援しているあなたは、もうスワローズの歴史の一部です。こんな経験、楽しまなきゃもったいない! どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

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