暴れ馬から虎のエースへ

 両リーグ最速で10勝を挙げた。勝利数、勝率、防御率、完投数、完封数。7月18日時点では、セ・リーグ投手5部門でトップにたつ阪神・青柳晃洋投手は、誰にも文句を言わせない虎のエースとなっている。チームは開幕当初のことを忘れるかのように気づけばAクラス争いを展開。皆さん周知のとおり、青柳投手がローテーションに戻ってきてから投手陣が一気に安定した。今では青柳投手の登板試合を星勘定しているファンも少なくないだろう。

青柳晃洋

 2019年シーズンに初めて開幕ローテーションに入ると、翌2020年は離脱することなくシーズンを完走。2021年は13勝を挙げ、最多勝利と最高勝率のタイトルを獲得した。今シーズンはもっとすごい数字を達成しそうな予感がする。

 今や安心感さえある青柳投手だが、OBの掛布雅之氏の言葉を借りれば、入団当初の青柳投手は「暴れ馬だった」。クォータースロー(サイドスローとアンダースローの中間)から投じられる球は、捕手のミットから離れた場所に向かうこともあり相手打者が大きくのけぞることもしばしばあった。

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「四球を出してはいけないとかそのイニングを絶対0点で抑えないといけないと思うと力んでしまって逆にダメでしたね。でも、先発投手は長いイニングを任されるのでそのトータルで抑えればいいと福さん(福原忍投手コーチ)に言われてから、全てを全力でいくのではなく、強弱をつけて投げられるようになりました」。ローテーションに定着した頃にこう話していた青柳投手はどんどんどんどん安定感のある投球に進化していった。

浅村、山田哲人に「付き合ってもらえますか?」青柳の“克服力”

 彼の凄さはその“克服する力”ではないだろうか。「(坂本)誠志郎を信じて投げました」と青柳投手が全幅の信頼を寄せる坂本捕手も「ヤギの足りないことを克服しようとする努力はすごいですよ」と話す。それは、昨年の東京五輪で侍ジャパンに招集された際にも発揮されていたという。投手コーチを務めた建山義紀氏が事前合宿での出来事を話してくれた。

「(一塁へワンバウンドの)特殊なスローイングをするから、投内連係が終わったあとに『たくさんやらせてもらっていいですか?』と自ら申し出てきたんだよね。一人ではできないから、(山田)哲人と浅村(栄斗)にも『付き合ってもらえますか?』と」

 阪神のチーム内であれば、一塁送球がワンバウンドなのもみんなが理解していることではあるだろうが、侍ジャパンではそうではない。それを自らお願いできる強さが青柳投手にはあるのだ。