「ああどうも、久しぶり。今日もヘンなレコード、いっぱい聴けるんでしょ? 楽しみにしてるよー」
2016年2月11日の午前中。渋谷のNHK放送センターの控室で「お久しぶりです! 本日はよろしくお願いします!」と挨拶すると、大島康徳さんは穏やかな笑顔で迎えてくれた。
大島さんは1968年秋、中日ドラゴンズに指名され入団。83年には36本塁打を放ち、本塁打王のタイトルを獲得。87年オフに交換トレードで日本ハムファイターズに移籍して主軸打者として活躍、90年には通算2000本安打を達成。24年間の現役生活を通じて2204本の安打、382本の本塁打を放った。94年の引退後、00~02年にはファイターズの監督を務め、06年に開催された第1回WBCの日本代表チームでは打撃コーチに就任し、日本代表の優勝を支えた。その球歴たるや並ではない、球史に残る大選手だ。決勝ホームランを打っては飛び上がって喜び、審判による不服の判定には身振り手振りで猛抗議。喜怒哀楽を全身で表現する、熱血漢の野球人だ。その大島さんから「楽しみにしてるよー」と気軽に声をかけてもらえるようになったのは、そこから遡ること4年前、12年1月9日の出会いがきっかけである。
大島康徳さんとの共演が決まるまで
NHK-FMでは、主にゴールデンウィークや年末年始などの大型連休の時期、長時間の特別番組『今日は一日○○三昧』を放送している。“〇〇”の部分にはテーマ名、例えば“クラシック”や“ジャズ”“プログレ”などの音楽ジャンル、“ザ・ローリング・ストーンズ”“大滝詠一”などのグループ・個人アーティスト、“名古屋”“大阪”などの地域といった具合に、ひとつのテーマに絞っておよそ10時間に渡り生放送し、テーマに沿った楽曲を流すというものだ。
“野球レコード収集家”を自称し、古今の野球レコードを闇雲にコレクション、それら野球音源のみをひたすらかけまくるイベント「プロ野球 音の球宴(以下、“音球”)」を、ヨシノビズム(彼について説明すると話が長くなるので、検索してください)とともに不定期で開催している私の元へ、知人を通じてNHKから「年明けに『プロ野球ソング三昧』の企画が立ち上がったので音源提供などで協力してほしい」という依頼があったのは11年の秋。「局側に手持ちの無い音源を貸し出せばいいんだろうなぁ」くらいの考えで番組スタッフとの最初の打ち合わせに臨んだ。
スタッフ氏「11年シーズン、日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスに敬意を込めて、当日は福岡放送局からお送りします。12球団の関連楽曲をそれぞれ4~5曲用意して、リーグ対抗の形式で行います」
音球「なるほど、オールスターゲームの要領ですね」
ス「当日の出演者ですが、進行役は道谷眞平アナウンサー、場内アナウンスを三輪秀香アナウンサーが担当します」
音「スポーツ実況でお馴染みの道谷さんですか! まさに適役です。“ウグイス嬢”を配するのも野球らしい演出ですね」
ス「お笑いコンビ『ますだおかだ』のお二人には両リーグの応援団長として出演していただきます」
音「増田英彦さんは阪神タイガース、岡田圭右さんはオリックス・バファローズの大ファンで有名ですから、間違いないキャスティングですね」
ス「歌のゲストには水木一郎さんにご登場いただきます」
音「アニメソングの帝王、“アニキ”こと水木一郎さんは中日ドラゴンズ球団歌『勝利の叫び』や『燃えよドラゴンズ!2002』、『我らが覇者福岡ダイエーホークス』といったプロ野球応援歌も歌っていますから、生歌を披露いただけるなら盛り上がりますね」
ス「OB解説として、NHK野球解説者の大島康徳さんに出演していただきます」
音「我々はファイターズファンなので、大島さんの出演はうれしいですね」
ス「それから、“音球”のお二人にも出演してもらいます」
音「えっ……?」
繰り返すがNHK-FMの特別番組である。聞かされた出演者は大物揃いだ。その中に我々のような馬の骨が紛れ込んでいいものか? 躊躇したが「作詞・作曲者や歌手など楽曲の説明役も必要なので」と言われ、出演の末席に加わることとなった。