山田哲人が、かつてないほど苦しんでいる

 山田哲人が、かつてないほど苦しんでいる。攻守に精彩を欠き、彼本来のパフォーマンスをまったく発揮できていない状態が続いている。長年にわたって第一線で活躍し続けてきた勤続疲労による影響なのか、あるいは故障、コンディション不良を抱えながらの出場なのかは判然としないけれども、何か重大な問題を抱えているように感じられて仕方がない。

 山田はあまり感情を表に出すタイプではない。浮かれて調子に乗るタイプでもない。マスコミ受けするような発言も、スポーツ新聞の見出しになるようなキャッチーなコメントを発するわけでもない。ただ淡々と、ただ黙々と、常に第一線でヤクルトを背負い続けてきた。その山田が、かつてないほどもがいている。

 ツイッター上では「山田哲人」がトレンド入りしていた。それは、肯定的な意味ではなく、否定的なニュアンスでのものだった。あるいは、ヤフーで「山田哲人」と検索すると、「不調」「打てない」といった関連ワードが表示される日々が続いている。こうしたものも含めて、ネット上では山田にまつわるさまざまな意見が飛び交っている。

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 それらを眺めてみると「批判的な意見」「擁護する意見」に大別される。「引退勧告」や「他球団への放出」など、なかには過激な意見も散見されるけれど、批判的意見にしても、山田を擁護する意見にしても、大半は「一時休養を」「ファームで再調整を」、あるいは「下位で気楽に打たせてみれば」といった意見が目立つ。いずれにしても、「山田の実力はこんなものではない」という思いが、その根底にあるように見受けられるのだ。

 いったい、山田哲人はどうしてしまったのだろう?

山田哲人

歴代背番号《1》に祝福された幸せな男

 山田哲人には一度だけインタビューしたことがある。そのときには、「ミスタースワローズ」の象徴である「背番号《1》」を背負うことの意味をメインテーマに据えた。若松勉、池山隆寛、岩村明憲、そして青木宣親が輝かしい歴史を築いてきた背番号《1》を、山田が受け継いだのが2015(平成27)年オフのことだった。この年、ヤクルトは真中満監督の下、14年ぶりのセ・リーグ優勝を果たし、山田はトリプルスリーを達成している。

 青木宣親が渡米して以来、4年間空白だった背番号《1》を山田が背負うことにチーム内外、そして歴代「ミスタースワローズ」からは何も異存がなかった。僕の取材に対して、彼らはこんな言葉を残している。

「山田には、最多安打のタイトルを獲得した14年から“今年頑張って、堂々と《1》をつけなさい”って言っているんです。去年も、今年も大活躍をして、十分《1》に相応しい選手だと思います。山田は配球も読むし、追い込まれても粘ることができるし、ホームランも打てる。インサイドのさばきもすばらしい。うまくひじを畳んでバットのヘッドの重さを利用しながら、グンッとスイングが速くて……。あんなになるとは思わなかったなぁ」(若松勉)

「14年の段階で、球団内には“山田に《1》を”という話はあったし、僕自身も“背番号《1》は球団の顔だけれども、山田なら大丈夫だと思います”と答えました」(池山隆寛)

ヤクルトの《1》は特別なもの

「ヤクルトの《1》は特別なものだという思いが、僕には今でもあります。だから、トリプルスリーを達成した山田はもうすでに《1》をつけていい選手だと思います。彼はそれを背負っていける人間ですよ。だから、自覚を持たせるためにも《1》を与えるのはアリだと僕は思いますね」(岩村明憲)

「ヤクルトの《1》は特別な番号。プレーだけではなく、人間的にもチームを引っ張っていってもらいたい」(青木宣親)

 歴代背番号《1》の英雄たちに祝福されて、このときから山田の新たな歴史がスタートしたのである。彼の応援歌のフレーズを借りるならば、まさにそれは「夢へと続く道」の始まりだった。これを受けて、「背番号《1》への思い」を尋ねたのだ。開口一番、山田は言った。

「ミスタースワローズと言われる番号で、偉大な方たちがつけてきた」

「“いつかつけてみたい”という思いはありました。小さい頃から《1》をつけたことがなかったし、ヤクルトでは《ミスタースワローズ》と言われる番号だし、これまで偉大な方たちがつけてきた番号ですから」

 いきなり、山田の口から「ミスタースワローズ」というフレーズと「偉大な方たち」というフレーズが飛び出して僕は一気に興奮した。

「若松さんからは、以前から“頑張って、この番号をつけられるような選手になれよ”って言われていました。池山さんには“この番号をつけてもいいですか?”って、一応、確認をしました(笑)。青木さんには、“よかったやん、頑張れよ”って言われたんですけど、岩村さんからは“まだユニフォームに着られているぞ”って言われましたね(笑)」

 さわやかな笑顔、こぼれる白い歯が印象的な瞬間だった。