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マウンドでもお立ち台でも炎上を回避する“常識破りの常識人”巨人・戸郷翔征の魅力

文春野球コラム ペナントレース2022

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 もしこの選手がいなかったら、今年はどうなっていたんだろう……。

 想像するだけで、背筋が寒くなります。一時5位まで沈んだジャイアンツですが、今季はプロ初勝利を挙げた投手が7人(球団新記録)も出現。新戦力が台頭したともいえますし、計算していた戦力が機能しなかった裏返しともいえます。

 そんななか、チームトップの10勝をマークする戸郷翔征投手は、なんと頼りになる存在なのでしょうか。一昨年、昨年は9勝と惜しくも2ケタ勝利に到達できませんでしたが、今季は壁を越えた感があります。

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 考えてみれば戸郷投手は高卒4年目の22歳で、大学生なら4年生になる年齢。その若さで、すでにプロ4年間で29勝もマークしているのですから驚きです。

自己最多の10勝目をあげた戸郷翔征

マダムの「戸郷認知度」は10%くらい?

 これだけの実績を残しているにもかかわらず、戸郷投手はまだ野球ファンの間でしか認知されていないように感じます。純烈ライブに来てくださるマダムにアンケートを取ったとしても、戸郷投手を知っている人は10パーセントくらいでしょう。

 もっともっと多くの人に戸郷投手の魅力を知ってもらいたい。そう願わずにはいられません。これほど巨人の常識を覆してきた投手は珍しいのですから。

 巨人の歴代先発投手を見ると、ある共通点に気がつきます。それは圧倒的に「ドラフト1位」が多いことです。堀内恒夫さん、江川卓さん、槙原寛己さん、斎藤雅樹さん、桑田真澄さん、上原浩治さん、高橋尚成さん、内海哲也投手(現西武)、菅野智之投手……などなど。逆指名(希望入団枠)での入団を含め、エース格になった投手は「これでもか!」とドラフト1位のエリートです(江川さんは正確には阪神のドラフト1位なのですが、ご了承ください)。

 一方、戸郷投手は2018年のドラフト6位。巨人が同年に支配下選手として獲得した新人6人のなかで最下位の指名でした。

 下位指名の投手で3年以上も先発ローテーションを守った投手と言えば、東野峻さん(2004年ドラフト7位)までさかのぼらなければなりません。レジェンド級に活躍した投手であれば、1974年ドラフト外入団ながら165勝を挙げた西本聖さんくらい。

 東野さんは原辰徳監督から禁煙を勧められた逸話があったように、ワイルドなイメージ。西本さんは1学年上の江川さんに強烈なライバル意識を燃やしたと聞きます。でも、戸郷投手の涼しげな表情からは、下位指名選手特有の無骨さやヤンチャさは感じられません。

 僕自身、戸郷投手と物理的に接近した印象的な出来事がありました。

 今から3年前、仕事で大阪に行っていた僕は東京に帰るため、新幹線に乗っていました。すると、名古屋駅で大柄の3人組が乗り込んできたのです。巨人ファンの僕はすぐにピンときました。ナゴヤドーム(現バンテリンドーム)での登板がなく、先に上がった巨人の投手たちだと。

 高橋優貴投手と桜井俊貴投手は顔を見て、すぐにわかりました。二人ともドラフト1位指名を受けたホープですから、ファンとして声をかけたい欲求にかられました。でも、いくらファンあってのエンタメ業とはいえ、移動中は数少ないリラックスタイム。「すみません、ジャイアンツファンなんです」と僕が話しかけることで、選手が明日に疲れを残してしまう可能性だってある。1席前の桜井投手の背中越しに悶々としているうちに、新幹線は東京に到着しました。

 ところで、高橋投手と桜井投手の存在はわかったものの、もう一人の存在がわかりません。面長であどけない顔立ちに、ひょろりと細身なスタイル。その場では「付き添いのマネージャーさんだろう」と結論付けました。

 ところがその年の秋、勝てばリーグ優勝が決まるという大事な一戦で僕は仰天しました。すっかりマネージャーと思い込んでいた若者が、巨人の先発投手としてマウンドに立っていたからです。当時高卒ルーキーでプロ初登板だった戸郷投手でした。

 身長187センチ、体重80キロと立派な体格を誇る戸郷投手ですが、あまりの素朴な雰囲気にアスリートの匂いが香ってこなかったのです。

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