たくさんの技術が詰まっているベンチリポートの奥深さ
あれから時が過ぎ、そんな私が今シーズン、新しく挑戦したお仕事があります。
それはベンチリポートです。
PayPayドームならば、三塁側ベンチのすぐ横にあるカメラマン席にいて、試合中継中にチームや選手についての情報を入れたり、ホームラン談話やタイムリー談話などを入れたりするお仕事です。
本来ならば、試合前に自分で選手に取材した内容を使いますが、コロナ禍の今は囲み取材に入れる人数も限られているため、担当の方が取材してくださった素材を使っています。今までベンチリポートをされてきた先輩方に比べたら、私のチャレンジはとてもハードルの低いものだと思いますが、それでも私にとってはとても大きな挑戦でした。
今まで漠然と「すごいなぁ……」と思って聞いていたベンチリポートを、実際に自分がやる側になった訳ですが、ベンチリポートの勉強を始めてすぐにその奥深さを感じました。
まず、ベンチリポートは実況アナウンサーと解説者のやり取りを聞きながら、その内容に合った情報を「流れを壊さないタイミング」で入れるということが基本になりますが、それだけでなく試合運びや選手のプレーを予想しながら、重要なシーンに自分のリポートが被らないように気をつけなければいけません。
どんなにイイお話や重要な情報でも、それを間違えると「邪魔」になってしまうのです。
野球の基礎知識はもちろん大事なのですが、そういったタイミング・内容・リポートを入れる回数・話すスピード・声のトーンなど、たくさんの技術が詰まっています。そこにマニュアルや答えはありません。その人らしいベンチリポートができるようになるには、相当な努力が必要だと思います。
そうやって1試合の間に頭をフル回転させるため、中継番組が終わるころにはガス欠で低血糖を起こし手が震えだしたこともありました。
そして、ベンチリポートを担当する日にはもう一つ大事な役割を任されるときがあります。
それは、ビジターチームが勝った場合のヒーローインタビュー。私のベンチリポートのデビュー戦は7月30日の「ホークス vs ライオンズ」でした。ヒーローに呼ばれたのはその日プロ初完封を達成した與座海人投手。與座投手の野球人生の年表に確実に刻まれるであろう、とんでもない日のヒーローインタビューをこんな新人へなちょこリポーターが担当することになってしまった……。ご本人にとってはもちろん、ご家族やファンの皆さんにとっても特別な時間だったはず。案の定、私が準備していたインタビュー内容はどれも使えず、指導についてくださっていた先輩にフォローしていただいてなんとかやり遂げることができましたが、先輩のフォローもなく1人だったら與座投手の晴れ舞台を台無しにしていただろうと反省しっぱなしでした。
そうやって、このお仕事はたくさんの歴史的瞬間や日々のドラマに立ち会いながら、選手たちや視聴者の皆さんの時間を少し「豊か」にするチャンスを与えられた重要な役割。新たな挑戦をとおして、もっと!もっと!もっと!野球の世界を深く知りたいと思ったし、ホークスだけではなく全球団について勉強して、さらにレベルアップしたい気持ちが漲っています。
今年のレギュラーシーズン最終盤はまさに、歴史的瞬間やドラマが凝縮されていました。2位に終わってしまったホークスでしたが、CSファーストステージでは今までの元気と熱さを取り戻して2連勝。チームは日本シリーズ進出をかけてファイナルステージの舞台となる大阪へと飛び立っていきます。
CSファイナルも、その先の日本シリーズも「ホークス主催ゲーム」ではないため、この先の戦いは皆さんと心を一つに、ひとりのファンとして見守っていきたいと思います。
今シーズンの挑戦で見えた課題や改善点と向き合い、皆さんに心地よいと感じていただけるベンチリポートを目標に、PayPayドームの選手たちとテレビの前の皆さんを繋ぐ“架け橋”となれるよう、来シーズン以降も私の挑戦は続きます。
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