できる事なら日本一を目指す戦いをまだ続けたかった時期、決して負け惜しみなどではありません。横須賀(DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA)で始まった秋季練習は格別なエネルギーに満ちています。
春季キャンプに比べると秋季練習には個を鍛える要素がぎっしり。一人一人の姿を目の当たりにすると近い将来への期待と想像が際限なく溢れます。
実り多き時間を経て秋季練習に
三浦監督が「シーズンの反省をし、量も質も上げた練習をしないと。すぐ来シーズンになりますから。見た目で面白い練習はありませんけど」と話すメニューはコーチ陣が工夫を凝らし、ほぼノンストップ。打撃練習では一定のリズムで響く音に合わせタイミングを取るトス打撃、次にサンドバックをバットで叩いたら、通常のボールとソフトボールを打つロングティー、その後ゲージ内で打つローテーションを繰り返す。息が上がる選手も多いのですが、シーズン同様の良い雰囲気と元気が満ちています。
三浦監督はシーズン終了後全員と面談し、個々が取り組む課題を洗い出し全員で共有しました。「新しい発見が沢山あったし、お互いの考えもすり合わせることができた。頂点に迫ったシーズンを戦った経験が意識を高めた」と実り多き時間を経て秋季練習に入りました。
2年目を終えた牧秀悟選手は面談の際「シーズン通して4番を務めたことに監督から感謝の言葉をいただきました。でも87打点はもう少し伸ばせた、もったいない打席も多かったと指摘されました」と。その上で「勝つチームの主軸はここという状況で打っている。優勝を意識できたシーズンを経験し分かった事がある」と決意を新たにしていました。
なるほど、具体的かつレベルの高い悔しさを原動力にして狙いを定めた練習は、前を向く空気を生み出す。一人一人、戦い抜いたシーズンを踏まえ次へ定めたターゲットがにじみ出ています。
シーズン当初、石井琢朗コーチ(来シーズンはチーフ打撃担当)は「若手がレギュラーを奪う事は並大抵ではない。シーズン通して一人二人とレギュラーに近づく選手が出れば」と話しましたが、シーズン後「底上げには手応え」と感じています。中でも名前が挙がったのが「局面ごとに役割を果たし自分の居場所を築いた」と評価した関根大気選手、3番も務めた6月の打率が.310など走攻守全てに爪痕を残した蝦名達夫選手、そして楠本泰史選手です。
苦しんでいた2019年から力強く変わった楠本選手
楠本選手は入団2年目の2019年、オープン戦首位打者の.388、得点圏打率に至っては.714を残し開幕スタメンを勝ち取ります。ブレイク間近でしたが、本人は「毎日プレッシャーで吐きそうでした……野球が楽しいと感じることを忘れていました」と苦しみ、この年出場は39試合にとどまり打率も.208。この経験が糧になりました。
できる準備は全て妥協せずに行う選手ゆえに、進化は一足飛びではありませんが少しずつ諦めず歩みは前に。
今シーズンは打率こそ.252でしたが、出場94試合と6本塁打に26打点、加えて勝負所のスクイズを含む13の犠打は自己最高。1〜3番更に5番6番と様々な打順適正を試される中で持ち前のバットコントロールを発揮しました。
3年ぶりに開幕スタメンを勝ち取った今年3月「もう弱みは見せない。外国人選手の不在が痛いと思わせない。チーム力の底上げをする」と誓って奮闘したシーズン。
2019年のクライマックスシリーズではベンチ入りすら叶わず「悔しくて試合すら見られなかった」と言っていた楠本選手ですが、2022年の同じ舞台に際して「チャンスでひるまない。大事な勝負は高校野球の様に気持ちでも上回る」と力強く変わりました。
いよいよ、楠本選手が丹念に組み合わせてきた歯車に『自信』という潤滑油が注がれます。「もっと高いレベルでチームに信頼される存在になりたい」という次のステップは目前です。