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33年前の優勝争いの頃とは違う、オリックスの若手に力を与える指導者の言葉

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/09/26
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指導者と選手の信頼があるから力を発揮しやすくなる

 そんな時代を思い出すと今の若い選手たちが伸び伸び物怖じせずプレーしている姿に改めて時代の流れを感じます。今年の戦いを支えている強力リリーフ陣を見ても、経験の浅い投手たちが今では勝ちパターンの継投を担っています。

 40試合を超えて投げ、防御率が0点台の阿部は社会人から28歳でプロ入りし2年目。去年はリリーフで4試合にしか投げていません。宇田川も育成枠から7月に支配下登録されたばかりで、去年はファームでもわずかの登板のみ。本田もそうですし、山崎颯一郎も去年は先発で投げて今年途中からリリーフ。

 そうした面々がシーズン終盤の大事な試合、厳しい局面で委縮することなく、しっかりと投げています。みんな150キロ超えのボールを持っていますが、自分の力を信じ、自信を持って投げ込んでいますよね。

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 選手が力を発揮しやすい環境が昔より整ってきたのは確かです。その上で大事だと思うのが、指導者と選手との間の信頼です。指導者が、俺はお前を信じて使うから思い切っていってこい! あとの責任は取ってやるから、と腹を決めて送り出しているか。

 ベンチの信頼が伝われば選手は意気に感じてプレーしますし、迷いも消えます。

 昔の首脳陣もそう思って選手を使っていたとして、そこに言葉がなかった。言わなくてもわかっているだろう、という世界です。

 でも、今は普段からコミュニケーションをしっかり取って、監督やコーチも自身の考え、思いをしっかり言葉にして伝えます。選手というものは常に不安を抱え、結果が出ないと代えられるんじゃないか、と消極的な思考にもなりやすい。そういう時に信頼を感じる言葉をかけられたら救われ、よし! となります。

不安も迷いもないから150キロ超のボールに力がこもる

 僕は今、ジュニアチームの指導にも関わり、年末に行われる12球団ジュニアトーナメントにはオリックスジュニアの監督として参加しています。小学生との関わりの中でも気持ちの部分が大切だと思うことが多々あります。

 去年のチームに抑えで期待していた投手がいたのですが、本大会前の練習試合で投げさせるとことごとく打たれて結果が出なかった。本人は代えられるんじゃないか、監督はどう思っているだろう、と不安な気持ちになっていたと思います。

 だから、その子には「どれだけ打たれても俺はお前を使うから、逃げずに行け」と繰り返し伝えました。すると本選で1イニングでしたが力通りの投球でしっかりと抑えてくれて。本人はもちろん僕も嬉しかったですね。あとになって「監督の言葉が大きかった」と本人が言っていたと聞きましたが、小学生もプロも一緒です。

 常に不安を抱え、時には逃げてしまいそうにもなる選手の背中をどれだけ押してやれるか。特に今の子供たちは僕らの時代より野球に関しての経験値も高く、情報量も多い中で育ち、しっかりと伝えてやれば理解します。そういう子供たちが成長し、続々とプロの世界にも進んできているわけですからね。コミュニケーションを取り、信頼を伝える言葉は欠かせません。

 オリックスの若手選手たちの活躍を見ていると、中嶋監督やコーチ陣と選手の間でこのあたりがうまくいっているのだろうと思います。不安も迷いもなく、投げることに気持ちを集中させ、腕も振れているので150キロ超えのボールにさらに力がこもってくるのでしょう。

 さて、24日の楽天戦を山本できっちりと勝ち、残りは3試合。日程が飛び飛びのため山本にもう1試合先発を任せられるのは大きいですね。山本以外の2戦をリリーフ陣も総動員して何とか白星を掴み、あとはソフトバンクの結果次第。そこまで持っていってどうなるか。残り3試合の内訳はロッテ1の楽天2。今シーズン負け越している楽天との2試合もすんなりとはいかないでしょうが、30日のロッテ戦も気になります。当初、2軍調整中の佐々木朗希がもう1試合1軍で投げるというので、どこで投げるのか、オリックス、ソフトバンクの関係者もファンも大いに気になっていたことでしょう。結果、26日のソフトバンク戦になると報道がありました。

 ただ、それでも気を抜けないのがロッテ。33年前、オリックス優勝の可能性を実質的に消したのがロッテ。何年経ってもあの悔しさは忘れられないですし、シーズン終盤にロッテと戦うやりにくさは僕の中にずっと残っています。あの年は最終戦前の129試合目で、今年も142試合目のロッテ戦。重なって来るものもあります。しかし、今の選手たちはそんなことは知りません。ベンチの信頼もしっかりと感じながら、最後まで思い切りプレーし、全力でシーズンの優勝を勝ち取って欲しいですね。

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