規定到達2度でもあまりある吉川の魅力

 2023年WBC、侍ジャパンが世界の頂点に返り咲きました。

 普段野球を見ることがなさそうな純烈ファンのマダムの口から「ペッパーミル」や「源田の1ミリ」が飛び出すほど、国民の関心が高まっていたのが印象的でした。

 世界一の栄光に輝いたチームの中で全7試合に出場した、我らがキャプテン・岡本和真選手。

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 準々決勝のイタリア戦では5打点を挙げ、お立ち台に呼ばれ「最高です」を連発したとぼけっぷりで日本列島を何とも言えない空気にしました。でも、大会前のインタビューでは、大会にかける熱く激しい想いを口にしていたつかめない男でもあります。

 8年という長期間チームをまとめた偉大なる前キャプテン・坂本勇人選手のあとを継ぎ、27歳を迎えるシーズンからキャプテンに就任した岡本選手。日の丸を背負い世界一に輝いた岡本キャプテンとともにチームをまとめる副キャプテンに就任したのが、2学年年上の吉川尚輝選手です。

吉川尚輝 ©時事通信社

 高い運動能力で魅せる広くて堅い守備面と俊足と、卓越したバットコントロールを持ち合わせた攻撃面。攻守でユニフォームを汚しながらもチームのために力を尽くしてくれる男の姿は、巨人ファンの脳裏に焼き付いていることでしょう。チームで上位の女性人気を誇り、OBやレジェンド級選手から絶賛され、野球好きから全方位的な支持を集める男なのです。

 一方、見るものをワクワクさせる運動能力と気持ちあふれるプレーの裏には、怪我との戦いがあります。

 特に思い出される2018年の悪夢。入団2年目にしてセカンドのレギュラーをつかみ、シーズン途中には怪我で離脱した坂本選手の穴を埋めショートのポジションにつき成績を上向かせてきた矢先、一塁へのヘッドスライディングで骨折し長期離脱してしまったのです。

 5年も前のことだというのに、頭を抱え残念な気持ちに支配されたことをはっきり覚えています。当時はチーム内でヘッドスライディングによって怪我する選手が多かったので「ここでそんなに無理しなくても……」と思ったのです。

 ヘッドスライディングを試みて怪我もなく、際どいセーフを勝ち取れば「気迫あるプレー!」と感動する。そうかと思えば、怪我をしてしまった時には「もうちょっと抑えてほしいな……」と無責任に思ってしまう。自分自身の一貫性のなさに嫌気がさしたのもあわせて蘇ります。

 ほぼ手の中に収まりつつあったレギュラーの座を怪我によって手放してしまった2018年。次の2019年も腰痛によりわずか11試合の出場。ただ、ここからが吉川選手の真骨頂なのです。

 背番号が変更されてチーム内での序列も下がったかに見えた翌2020年に、初めての規定打席到達を勝ち取ります。2021年には死球による手の骨折。2022年にも死球による肩甲骨の骨挫傷と小さくない怪我を負いつつも、たくましく試合への出場を続けて3年連続100試合以上の出場を続けています。