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先輩・甲斐から届いたLINEに涙した夜

 この日、栗原は0-0のまま迎えた6回裏にライトスタンドへ3ランを放った。打った相手のマリーンズ開幕投手の小島和哉は、高校時代に18歳以下の侍ジャパンでチームメイトだったというのも何か運命的だった。

 もちろん試合後はヒーローインタビューに呼ばれた。お立ち台に上がると少し顔を上げて満員のスタンドを見渡した。栗原がレギュラーになったのは2020年シーズンから。この日のPayPayドームは40,062人でチケット完売。大歓声のある超満員のスタンドを経験するのはこれが初めてだった。

 そして栗原が感極まった表情になったのは、やはり大怪我からの復活という話題を振られたときだった。

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 1年前の絶望の真っ暗な夜とは180度違う景色。栗原は何を思い出したのか。

「一番なって欲しくない診断でしたけど、でもそれを受け止めないといけなかった。そして、その日の夜に(甲斐)拓也さんからLINEが来て、それを見て何かちょっと1人で泣いたのは思い出しました」

 その言葉とは。

「全力プレーの中ではあったけど、やっぱり時間を戻せるなら戻したいだろうという内容でした。たくさんの人に迷惑をかけるだろう。だけど、たくさんの人にお世話になって、それでも必ず戻ってこいっていうことは言ってました」

 栗原はもともとキャッチャーだ。先輩である甲斐には可愛がってもらっており、今でも遠征先のホテルで部屋を訪ねたりする仲だそうだ。

 支えてもらった仲間、復帰へ導くために尽力してくれた人たち、そして応援し続けてくれた人たちへ、野球選手としてプレーで恩返しをする。

 そこから生まれる勝負強さもあるのだろう。チャンスの場面になるとひときわ集中力が増して打席に立っているように見える。

 4月20日時点までにチーム14試合で14打点をマーク。今季に向けて一番欲しいタイトルに「打点王」を挙げており、まさにその言葉通りの活躍を見せている。

「全試合出ます! 大丈夫です!」

 もちろん気持ちだけで打てるほどプロ野球は甘くない。技術のアップデートも忘れていない。栗原はオープン戦から新しい打撃を試みている。

「ちょっと短いスイングというのを心がけてます」

 つまりどういうことなのか。

「『短く、小さく回る』イメージです。どんどんピッチャーのレベルが上がってますし、いろんな球種を投げるピッチャーが多い。自分の振りたいようなスイングができるときって少ないので。以前は、自分のスイングプレーンの中で“来た球に対して合わせる”ということが多かったんですけど、今はそういうわけにもいかないので“ピッチャーに自分が合わせて”という意識を持ってます」

 その言葉だけ聞くと、強い打球を打つのは難しくも感じるが「しっかりとボールの芯とバットの芯が当たるとボールは飛ぶと思ってます」と頷く。実際に打球は決して弱くなく、むしろこれまで以上に強く、そして速い。特にゴロの打球が速くなった。そうなると内野手の間を抜けやすくなり、必然的に打率が上がる。

 藤本博史監督は怪我明けの栗原へシーズン前は「全試合出場を考えなくていい」と考慮する構えも見せていたが、「全試合出ますよ、監督」ときっぱり。

「そういう思いでやりすぎると、かえって痛めたり怪我したりする。『何かあった時はすぐ言ってこい』と監督も言ってくれていますし、全部出ようと無理するなと言われていますが、全試合出ます! 大丈夫です!」

 いつだって前向きにひたむきに。野球の神様にそっぽを向かれないために。そんな栗原には必ずまたご褒美の時がやってくるはずだ。

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