自分の失敗を今の現役選手たちにはしてほしくない
グラウンドでの印象が強いため一見物静かに映るが、兵庫県出身で生粋の関西人だからか話がお上手で、テレビのインタビュー取材をした際も1つ質問をすれば10答えてくださり、ディレクターさんが「ほぼ編集が要らなかった」と驚いていたほどだ。
選手からコーチとなった今も、リハビリ組の守備練習で若鷹に「ボールに対して身体の角度がこうで……」と丁寧に説明しながら教えている様子をみていたら、こんな家庭教師の先生がいたら将来自分の息子をぜひ預けたいと思ってしまう(あ、まだ私独身だった……涙)。
ノックを打ちながら、『サイン、コサイン、タンジェント!』と叫んでいそうなので、科目は数学だろうか。
ジャパさんも「なんか数学っぽいですよね」と照れ笑い。というのも、論理的に物事を考えて、分析していく作業はもともと好きなのだという。
以前、奥様が何もないところでつまずいた際は、「今のはここの筋肉を使っていないから、足が上がらなくて躓くんだよ」と優しく説明してあげたそう。非常にありがたく、そして若干余計なお世話である。(笑)
そんなジャパさんは大学時代に教員免許を取得した。……しかし「数学」ではなく「現代社会」。暗記科目は苦手なんですけど……とまた笑うジャパさん。そんなオチまでつけてくださるのだから、やっぱり素敵だ。
そんなリハビリ組でのコーチ姿を「なんだか楽しそうに生き生きしていた」と先述したが、つとめて明るくのぞむようにしているからだという。自身も現役時代に2度手術を経験し、同じ立場にいる選手たちの気持ちが痛いほど分かる。
なかでも最初の手術の際には復帰まで6ヶ月を要した。しばらくの間何もできない……と「(気持ち的に)腐って、ぐうたらになっていた」と当時を振り返るが、その期間のトレーニング不足のせいで、身体がついて来ず後悔した。そんな自分の失敗を今の現役選手たちにはしてほしくないとの思いが強いのだという。
また、教えるのは技術のことだけではない。リハビリ組にはまだ高校を卒業したばかりのルーキーもいる。そのため、挨拶の大切さや生活態度など社会人の基礎から指導をしている。「人として基本的な当たり前のことをまずはしっかりと伝えていきたい」。普段の生活でのちょっとした気遣いや周りをみる能力が、野球にも繋がってくるはず……と穏やかに話す姿が、本当に先生みたいだな、と感じた。
ちなみに、そんなジャパさんにとっての『先生』は鳥越裕介さんだったという。守備については基礎の繰り返しとその練習量に「体力的にも精神的にもしんどかった」と言うが、やればやるほど上手くなり、自分自身の変化に衝撃を受けたとか。基礎がいかに大切か……それを身に沁みて痛感した。
「守備で10年間生活ができたのは、鳥越さんの指導のおかげ。一番の土台になっている」
その教えを今度は自分なりの言葉とやり方で試行錯誤しながら伝えていき、さらに不安や焦りから気持ちがナーバスになりがちな環境の中でも少しでも楽しく野球に携われるようにと選手に寄り添っていく。教え子たちが強くたくましくなって、再びグラウンドに羽ばたくために。
そして、ノックを打つ背中には新たな背番号の018。語呂合わせで『令和(れいわ)』だ……!とやっぱり覚えやすい数字を眺めながら、私はジャパさんの育てる若鷹たちの活躍が楽しみになった。
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