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“奇跡”の立役者たち

【1番・西川】無死一、三塁。初球を一、二塁間を抜くライト前タイムリーヒットで5点目。2点差とし、なおランナー一、二塁 。しかもまだノーアウト。

「打席では余計なことを考えずに、“無”を意識しました。打てる球があったら積極的にいこうと思っていたので、初球で仕留めることができたと思います。チームの押せ押せの雰囲気でヒットになってくれたと思います」

 西5-7ヤ (2点差)

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【2番・蛭間】無死一、二塁。初球で見事送りバントを成功させてランナー二、三塁。この回の8人目の打者で、ようやく1アウト。

「相手が左ピッチャーだったので、打席に入る前にはどうやったら進塁できるかと考えていたんですけど、いざ打席に入ったらバントのサインが出て、これはガチで勝ちにきているなと。次のバッターが川越さんとベッケン(渡部)さんだったので、何とか後ろにいい形で繋げば点が入るんじゃないかと思いました」

【3番・川越】一死二、三塁。3球目をレフト前へ。この打球が野手の間にぽとりと落ちて2者生還するタイムリーヒット。遂にライオンズ、同点に追いついた! なおもランナー一塁。

「左投手だったので、インコースに食い込んでくる球に注意して打席に入りました。とにかく良い流れを切らさず、ランナーを還すことに集中しました」

 西7-7ヤ

【打者一巡して4番・渡部】一死一塁。5球目をセカンドへの内野安打で繋ぐ。運も味方してランナー一、二塁。

「打席に入る前、西口(文也)ファーム監督から『ほら、回ってきただろ』と言われ、緊張がほぐれました。ホームランを狙っていましたが、カウントを重ねるごとに繋ぐ意識に変えました。抜けるかどうかの打球でしたが、いつもの“走魂”が活きてヒットになって良かったです」

【5番・ペイトン】一死一、二塁。3球目を振り抜いた当たりは、ライトスタンドに突き刺さるサヨナラ3ランホームラン! ホームベース付近に西武の選手たちが集まり、ペイトンのホームインと同時にペットボトルのウォーターシャワーを浴びせて勝利の歓喜に湧く。

「真ん中から高めのボールを待っていて、とにかく弾道を上げるつもりで打ちにいったんだ。サヨナラホームランになって最高にうれしかったね」

 ペイトンが生還した瞬間、10-7と西武の大逆転勝利で試合は終了した。ベンチで見守っていた首脳陣はどう感じたのか。

【西口二軍監督】

「7点差だったので、1点でも多く返したいと思っていたところ、まさかでしたね。川越で同点に追いついたところで、勝てるかも、と思いました。長い野球人生ですが、ここまでの逆転劇は初めてですし、四球も死球も無くてですから『奇跡』の一言です。こちらが驚かされました」

【大島裕行打撃コーチ】

「9回は相手投手も替わったので、1点でも多く取れればと思っていました。正直、ライオンズに流れはなかったですし、5点まではあれよあれよという間に点が入ってしまった感じです。5点まできたら同点まで、同点まできたら逆転したいという欲が出ました。岸のホームランで塁が綺麗になったので、気持ちが切れてしまうところでしたが、そこからまた山野辺が繋げてくれて、みんなを褒めてあげたいです」

【長田秀一郎投手コーチ】

「9回表が終わった時点で、監督と『もし同点になったら(10回表の投手は)誰でいくのか』と話を済ませていました。あの回は早いカウントからのヒットが続きどんどん点が入り、『あっという間だった』という感じでした。投手心理としては『同点以外で終わってくれ』というのが本音でしょうね。『まさかこの後の登板はない』という気持ちで準備に入っていますので、スイッチが入りきらないまま、打たれてしまう可能性が高いだろうと思います」

“奇跡”の逆転劇から4日後の出来事

 選手・監督・コーチのコメントを聞くと分かるのが、ポイントは山野辺選手のヒットだ。山野辺選手本人も大島コーチも、岸選手のホームランでランナーがいなくなった事に、攻撃の流れが止まる事への危機を感じている。

 ファンの立場からするとホームランは最高潮に盛り上がる状況で、高揚した気持ちは更に上昇するが、試合をしている側からすると、真逆な位の危機感を持っている事が意外だった。

 ただし、選手、コーチが同じ気持ちで同じ方向を見てるからこそ山野辺選手がヒットで出塁する事が出来たし、更には逆転サヨナラ勝ちに繋がったと思う。

 改めて、最終スコアは10×-7。

 余談だが、10の横の「×」は「バツ」ではなく「エックス」と読むようだ。「×」は未知数を意味する「エックス」で、あと何点入るか分からないとの意味を表す「×」らしい。閑話休題。

 気づけば相手チームより3点も多く取り、しかも最終回の西武は1アウトしか取られていない。勝負の世界に“たられば”は禁句だが、もし3アウトになるまで最終回を戦っていたとしたら何点取ったのだろう? つい、想像を膨らませてしまう。

 こんなドンデン返しの試合、年に1回あるかないかの稀な出来事。そう認識していたのだが、この試合の4日後の5月20日(土)イースタンの東北楽天戦で同じような事が再び起きた!

 8回終了時に1-3で西武が2点ビハインドで迎えた最終回の攻撃で、6安打4四死球で一挙7点を奪い8-3で逆転勝利。ビジターの西武は表の攻撃だったのでサヨナラ勝ちにはならなかったが、若獅子軍団がまたまた凄い試合をやってのけた。

 こんな事が頻繁に起こると、もう珍事ではない。神でもない。どう表現したら正しいんだ。

 定番? いや、恒例の? はたまた、お家芸? こんな表現になるのだろうか――。

 いずれにせよ、今シーズンのライオンズ二軍から目が離せない。

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