ベテランから若者へ…技術の伝承がなくなっていないだろうか
鵜久森淳志には、ある日こんなことを聞いた。
「稲葉さんに『ボールは右目で引いてくるんだ』って言われました」
2013年のWBCから帰ってきて以降の稲葉は、痛みに悩まされる時間が増えた。鎌ケ谷で2軍と共に調整する時間ができた。そんな時に聞いたはずだ。どういうことかといえば、右打者の鵜久森の場合、右目で投球を追った方が、投手寄りにある左目で追った時よりほんの少しだけ長くボールを見ることができるのだ。
なるほどと思うと同時に、超一流はそこまで野球を突き詰めているのかと驚いた。鵜久森も「そんなこと、考えたこともなかったです」。ベテラン選手は出番が減っても、チームの「知恵袋」になれるのだ。
翻って、低迷が続くファイターズ。今季もBクラスなら5年連続になる。これは東映時代の1968年から、2度の身売りを経て1977年まで続いた10年連続Bクラスに次ぐ。今のような状態のチームにこそ、ベテランの知恵が必要なのではないだろうか。
投手陣には宮西尚生がいる。本人にとっては不本意だろうが、7月に2軍に来てからの1か月ほど、練習を見ていると若手に語りかける姿が見られた。翻って野手には、そんな存在が見当たらない。このチームの「弱点」につながっている気がしてならない。若い選手は迷って右往左往するもの。そこで「ボソッと」ヒントを与えられる選手がいれば…真剣に再建を考えるなら、決して軽視できない部分だと思うのだ。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2023」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/65314 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。