野球は変わった。戦い方だけではなく、頭髪も。
持つべき考え方、育成方法などが洗練され、幅広く変化してきている。それを印象づけた夏だったと回想する。けれども皆が一定の方向に向かうわけではないのが面白い。
慶應義塾高校が夏を制する少し前、高校野球真っ盛りの8月。私の地元・大分県別府市にいる兄から送られてきた写真には綺麗に丸刈りになった甥二人の姿があった。
一人は現在小学1年生、野球を始めて半年ほど。「高校野球のお兄ちゃんたちを見て丸刈りに憧れた」という。もう一人の弟は野球を始めてもいないが、兄を真似たらしい。緑豊かな別府で、ささやかに生まれた逆張りの人生。二人がタンクトップ姿で並んだ写真からは年号を遡るような懐かしさを感じる。少年野球チームでも唯一の丸刈りらしい。「お風呂が楽だから大人になっても丸刈りの予定」と話す渋い甥が時代の波とどう向き合っていくのか気になるところだが、慶應のお兄ちゃんたちが教えてくれたエンジョイベースボールは等身大で味わっているようだ。感性ひとつひとつがまた愛らしく、私も兄も続けた野球で、どうやって力をつけていくのか楽しみで仕方がない。たまに観戦するホークス戦の座席も、どんどんグラウンドに近いところを要望しているという。
野球への想いは強くなり、上手くなりたいという気持ちも増している。
今の気持ちとしては「ホークス選手と警察官の二刀流を目指す」らしい。
小1らしい回答だが、プレーを続けていって、近いうちに「どうすれば上手くなれるのか」という永遠の問いにも向き合っていくのだろう。上手く導いてあげたいものだ。
私は小学4年で野球を始め色々試した。怪我も沢山した。大学入学を機に初めて関東に出て立教大学野球部に入り、出会う人の多さや肌で触れる情報の数、環境の違いを感じ学ばせてもらった。そして福岡でアナウンサーとなってからその学びはより深くなり、同時に多くのプロの背景を知った。「どうすれば上手くなれるのか」という問いに対して、大袈裟に、大胆に自分なりの答えを抽出しようとした結果、甥が絶妙に大事な時期に来ていることに気がついた。
同年代のお子さんを持つ方にヒントになるような、やっぱりならないようなお話かもしれないが、1つの事例として個人的に大いに共感したお話をご紹介させていただきたい。
理論も道具も不要。遊ぶだけ
気になることは動画配信サイトで解決し、効果的なトレーニングや情報で苦手をカバーしていくのが、令和の主流ではないだろうか。
そういったコンテンツを参考にして、お子さんの技術に磨きをかけようとする親御さんも少なくないはずだ。後からでも身につけていけるものが画面の中に溢れ、幾つになってもレベルアップできる気がする。いい時代だなと素直に思うのだが、ここである選手との何気ない会話と、ある解説者の言葉がよぎる。
私がインタビュアーを務める番組の企画で、ファンからの質問を選手に答えてもらうというものがあり、数年前こんなやりとりがあった。
Q「どんなボールでも捌いてしまう抜群の身体能力、強い肩、子どもの頃何をしたらそうなったのですか?」
A「そうですね。小学生では木、登っていました。木登り(笑)。自然の体の動かし方っていうんですかね。別府は田舎なので、山ばっかりなので、駆け回ったり。そういうので体力、体幹が鍛えられバランスが良くなったかと。中学は練習が厳しくなるから野球オンリーでしたけど」
笑いながら答えたのは大分県別府市出身、ホークス今宮健太選手。同郷で1学年上の先輩の言葉に、こちらも笑顔で頷いた。山と海に囲まれた地元の情景が浮かぶ。冗談半分と受け止めた視聴者の方が多かったかもしれないが、「遊ぶ中で確実に地力がついた」と今宮選手は言った。
昔から、投げるボールの音が人と違った今宮選手。
彼が小5、私が小4の頃の初対戦を思い出す。当然、その対戦は私しか覚えていない。並の投手の場合、ボールの回転する音は聞こえても「シュー」くらいのところ、今宮選手のボールは「ギュユルルーー!!」と言いながらミットに決まる。完全に低いと思ったボールが真ん中に浮き上がる。あっけなく見逃し三振したものだ。
そうか、あれは木登りの効能だったのか。甲子園での154キロも、プロでの華麗な守備も、自然が育んだのか。インタビュー時に私も「確かに自重トレーニングの最たるものかもしれない」と思ったことが残ってはいたが、改めてもう一つ、木登り発言が腹落ちするやりとりが最近あった。ホークス戦実況中継の際にあった解説者の言葉である。