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もしまた低迷期がきたら思い出したいあの言葉

 かくして、ファンもついていけないほど急激にオリックスは強くなったわけです。いや、ファンだけではありません。某野球ニュースの2021年順位予想、この年のオリックスのAクラス入りを上げた方は1人だけ、優勝予想は当然の0。名だたる解説者たちも、この大躍進はまったく想定していなかったのです。

 ですが、この変化を堂々と予言していた選手が、過去にオリックスにはいました。

 岸田護投手(現オリックス投手コーチ)、通称マモさん。彼は2019年、自身の引退セレモニーでこう言いました。

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「これからオリックスは強くなります。長い長いトンネルを抜けようとしています」

2019年9月、引退セレモニーを終え、観客の声援に応えるオリックスの岸田護投手 ©時事通信社

 このセレモニー、私は京セラドーム大阪のライトスタンドで見てたんですが、めちゃくちゃに泣きました。泣きすぎて隣にいたオッサンがちょっと引いてる感じがあったんですが、それでも構わず泣きました。そして心の中で「信じます!信じますよマモさん!」と誓ったのです。

 その後、隣のオッサンに軽く会釈し、泣きはらした目で帰路につきました。

©NAKATA(君)

 信じきれませんでした(2回目)。

 ちょっと言い訳をさせてもらうと、この頃のオリックスは本当に弱かったんです。投手が頑張っていれば打線が沈黙し、打線が奮起すれば投手が炎上する。ここぞ!というときにはとんでもないエラーが飛び出し、それを見た中継の解説者は絶句していました。

 それが今やどうでしょう。

 投手が打たれれば打線が奮起し、打線が打てなければ投手が抑える。ここぞ!というときに飛び出すのはファインプレーで、それを見た解説者は惜しみない賛辞を送るではありませんか。

 マモさんの言う通り、オリックス・バファローズは本当に強くなったのです。

 まさか生きているうちにこんな時代が来ようとは。弱小時代を耐えたオリックスファンからもこのような声が聞こえてきます、「これはもう黄金時代の到来だ!」

 ……とはいえ、ずっと強くいられることなどあり得ません。なぜならどの球団も育成をし、補強をし、チーム全員一丸となって優勝を勝ち取りにくるからです。オリックスもまた弱くなることもあるでしょう。以前よりもさらに長い低迷期が来るかもしれません。

 でもその時が来たら、私はライトスタンドで泣きながら聞いたあの言葉を思い出したい。

「これからオリックスは強くなります。長い長いトンネルを抜けようとしています」

 次は信じきります。信じきれますよ、マモさん。

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