晴れ渡った10月某日。私はこの日の出来事を一生忘れない。本当に、感慨深いものがあった。

 文春オンラインを通じ、ボー・タカハシへの取材が実現したのだ。

 私は西武に昨シーズン入団したボー・タカハシという選手が大好きになり、ボーの入団とともにX(旧Twitter)にて「ボータカハシ優勝bot」として情報発信をするようになった。

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 そこから2年弱、まさかボー・タカハシ本人に直接取材をすることになるなんて夢にも思っていなかった。

ボー・タカハシ with ボータカハシ優勝bot

 せっかく訪れた機会を無駄にすることなく、ボーに聞きたいこと、知りたいことは可能な限り全て聞こう。そうした心持ちで取材に臨んだ。

 インタビューの日取りが決まってから、指折り数えてやって来た当日。私は「これからボーに取材するんだ!」という興奮、「ついに大好きな人に会えるんだ!」という楽しみな気持ちとともに、不安や緊張といったネガティブな感情も入り乱れていた。

 私は「ボータカハシ優勝bot」として、ただSNSで情報発信しているだけの一野球ファンであり、一大学生。文春野球西武からオファーをもらってライターとして1年間活動してきたが、もちろん取材経験はない。


 プロ野球選手へのインタビュー、それも私の一番大好きなボー・タカハシとの対面。緊張しない……なんてことは到底無理な話だ。

 複雑な思いを抱えながら、西武線に乗ってベルーナドームに到着。高揚と緊張、興奮と心配といった感情が交錯する中、その時はあっという間に訪れた。

 西武の球団事務所で用意された部屋にボーが目の前に現れた瞬間、私は極度の緊張で頭が真っ白になった。

 なにも考えられず、言葉が出ない。でも、こちらからなにか話しかけないといけないーー。

 これ以上ない緊張に包まれている私に対して、ボーは明るくグータッチをしてくれた。

 ボーが場を和ませてくれたおかげで、気を楽にして落ち着いて取材に進むことが出来た。

ボー・タカハシ(左)withボータカハシ優勝bot ©ボータカハシ優勝bot

「ボータカハシ優勝botをどう思いますか?」

ーーはじめまして。私は普段「ボータカハシ優勝bot」として、毎試合ライオンズの試合と連動して、どんな試合でも「42」や「ブラジル」といった数字や言葉をボー選手に関連づけて、「今日の勝利はボーのおかげ」という感じのスタンスでSNSで情報発信をしている者です。

 ボーは私のことは知らないと思い、まず自己紹介をした。

 しかし、ボーの返答は思いもよらないものだった。

「知っているよ。親戚が教えてくれたんだ。いつも『ボーが優勝』と書かれていてとても気に入っている。実際に会えて嬉しいよ!」

 なんと、ボーは私のことを認知してくれていたのだ。そう聞いた時、私は心の底から嬉しかったのと同時に、一抹の不安を覚えた。

「ボータカハシ優勝bot」という存在を、ボー自身があまり快く感じていないのではないか?

 そうした不安がずっと拭い切れなかったのは、「ボータカハシ優勝bot」は私が勝手にボーについて取り上げているアカウントだからだ。よくわからない者に自分の名を使われ、ボー本人が不快に感じていてもおかしくない。

 果たして、ボー自身はどう思っているのだろうか。率直な胸の内を確認するため、私はこんな質問をぶつけた。

ーー「ボータカハシ優勝bot」というアカウントの存在についてどう思っていますか?

「正直、最初はなんだろうと思っていたよ(笑)。日本に住んでいる家族に尋ねてみたら、『良い事がいっぱい書かれている』と聞いて嬉しく思った。自分に対してこういうアカウントが出来たことはもちろん初めてだよ(笑)。すごくありがたいし、感謝しかないよ!」

 私はボーの言葉を聞いて、心から安心した。同時に、驚きの気持ちが込み上げてきた。前述したように、勝手に「ボータカハシ優勝bot」を名乗っているからだ。

 だから「感謝しかない」というボーの言葉は本当に嬉しく、今までこのアカウントを続けていて良かったという思いが込み上げてきた。