田中投手の向こうに石川投手を思いながらシーズンを追った
去年、彼は1軍に帰って来た。5月、1軍では954日ぶりの登板、7月には9回のマウンドに立ち、1078日ぶりのセーブ。復活の石川投手から出た言葉。「リハビリは9回に投げることを目指してやってきた」。諦めていなかった。諦めるタイミングはいくらでもあっただろう。でもそうしなかった。そうしないという信念を貫いて辿り着いた自分が戻りたかった場所。
私はいとも簡単に過去のことにしていた。石川投手が「抑え」という立場にこれほど拘っていたことを。石川投手がいない間、試合ごとに9回に投げる投手を見てきたけれど、その向こうにそこに拘る石川投手を重ねてはいなかった。何が応援番組のパーソナリティだと自分が恥ずかしくなった。
抑えでスタートした今年。チームは開幕から苦しみ、17試合目でやっと石川投手にセーブが記録された。でもその後、左内転筋の肉離れで1軍を離れる。そのポジションにはホークスから移籍してきた田中正義投手が納まり、着実にセーブ記録を残していった。
私は今度は忘れなかった。石川投手は今もいつか9回に投げる自分を思いながら2軍で信念のもと励んでいるはずだ。田中投手の向こうに石川投手を思いながらシーズンを追った。
8月に1軍登録、9月12日のエスコンでのバファローズ戦で3点ビハインドではあったけれど、石川投手は9回のマウンドにあがった。森友哉選手に3ランを打たれる、2試合連続の失点だった。
私はHBCラジオで試合中継前後のファイターズ応援プログラムを担当している。その日も番組があって、試合後、エスコンで取材を終えたリポーターが新庄監督の談話を伝えてくれた。生放送の中でそのリポートを受けながら、私は言葉に詰まった。
「石川くんにはもう2軍に行ってもらってね、2軍でも投げさせずに走り込みとトレーニングをしてもらって、もう来年に向けてね」。すなわち、もう今年は1軍には呼ばないということだ。「自分の思ったフォームで投げられなくて悔しい」と言葉を残し、彼は登録抹消された。もやもやの残る幕切れ、0勝0敗3ホールド1セーブ、防御率は5.87で石川投手の2023年シーズンは終了した。
鎌ケ谷でトレーニングを積み、体脂肪が3%落ちたと報じられた。アスリートの体の3%は我々の3%とはわけが違う。誰よりも早く、節目の10年目に向けてスタートしている。9回に投げる自分を思いながら、来シーズンに向かっている、そう願っている。頭の中にGLAYの『HEROES』(作詞・作曲:TERU)が流れる。
「これからも諦めず戦おう 疑わず戦おう 焦らずに戦おう
雲は見えてるか? 風は感じてるか?
ずっとずっと自分を信じて行けよ!」
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム 日本シリーズ2023」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/66265 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。