リテラシーの能力を上げていくことが急務

 ライツ(権利)関係は作品にとっての生命線であり、もしトラブルなどになった場合には多額の損失をこうむるだけでなく、未来永劫その作品が日の目を見ることがなくなってしまう。

 こういったリテラシーを身につけているかどうかが、そのクリエイターが生き残ってゆけるかどうかのボーダーラインであり、だからこそテレビ業界全体としてその能力を上げてゆくことが急務なのだ。

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 テレビの制作者は「日本民間放送連盟 放送基準」というものに従って番組を制作し、放送している。その10章に「犯罪表現」という項目がある。

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 そこには「犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない」「犯罪の手口を表現する時は、模倣の気持ちを起こさせないように注意する」と記されている。

 (ビートたけし氏が主演を務めた特別ドラマ)『破獄』を私が作ったときには、この放送基準にのっとって充分な配慮をおこないながら制作を進めた。

 具体的にはこうだ。

 ドラマは吉村昭氏の小説を原作としているが、その読ませどころのひとつは「脱獄の手法」である。手に汗握るような詳しい描写がおもしろい。

 だが、ドラマでは「破獄の手法」が重要なのではなく「破獄の理由」が物語の主軸と考え、脱獄の手口を細かく映像化することは避けた。それは視聴者に模倣の機会を与えないようにという配慮であった。

 また当初は脚本上になかったセリフを足すという措置もおこなった。

 ビートたけし氏演じる看守の浦田が、山田孝之氏演じる脱獄犯の佐久間を網走刑務所に移送するシーンである。「網走は寒いから嫌だ」と愚痴を言う佐久間を浦田が「お前は人を殺した。その罰は受けなければならない」と諭すのだが、この浦田のセリフは当初の台本にはなかった。しかし、「犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない」という基準に沿った判断から、つけ加えることにしたのだ。

 このようにテレビの創り手は、細かなルールや決めごとをすべて理解したうえで、そのときの状況に合わせた臨機応変な対応を“迅速”かつ“適切”におこなう必要がある。