「セシウムさん」事件や局内の派遣問題などテレビ局内の問題を生々しく映しだした「さよならテレビ」、暴力団の二次団体の事務所を取材した「ヤクザと憲法」などの多くの作品を生み出し、テレビ発のドキュメンタリー映画として劇場公開してはヒットを続けている東海テレビのゼネラルプロデューサー・阿武野勝彦氏。今月、そのドキュメンタリー一代記とも言える著書『さよならテレビ』(平凡社新書)が刊行された。
番組のタイトルは戒名だという阿武野氏だが、「テレビの今」と書かれた番組企画書を見て「さよならテレビ、だね。それは……」と思わず言ったテレビマンに、ドキュメンタリーから視聴者との関係、そしてテレビの未来について話を聞いた。
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「なんであんないかがわしい人物を扱うんだ」
――2013年テレビ放映の「ホームレス理事長」は、理事長が寝泊まりしているネットカフェでPCのオセロゲームをしながら四角を取らせて勝つという美学を語るなど、人間の不可解さが強烈にあって、とても好きです。
阿武野 うれしいです。僕もそうなんです。成功して評価が確定した人を描くのは、簡単です。反対に、途上の人物をドキュメンタリーで撮るのは難しい。でもその方が、スリリングで、面白い。それで奮闘している真っ只中の人を描こうという視点で制作を始めたのが「ホームレス理事長」でした。
――野球チームをニュースのコーナーとして取材していた圡方宏史記者に、阿武野さんが「理事長は、何しているの?」と聞くと「金策です」と返ってきた。それで阿武野さんがこれはドキュメンタリーになるとひらめき、理事長を追うことになったそうですね。
阿武野 理事長は、高校をドロップアウトした球児たちの受け皿を作り、通信制高校も併設して大学で野球する道を開きたいという思いがあって、そのためのNPOの資金を集めようとするんだけれども上手くいかない。水道もガスも止められてアパートも追い出され、あげくはカメラの前でディレクターに土下座してカネの無心まで始めるんです。
その姿を放送したら、「頭が悪すぎ」「そんなにカネが必要だったらタバコをやめろ」「土下座する暇があったら働け」といった罵詈雑言のメールがたくさん寄せられました。それから経済界などの社会的地位の高い人たちで構成される東海テレビの番組審議会では「とんでもない番組だ。なんで、あんないかがわしい人物を扱うんだ」と批判されました。
それでも、退学球児の受け皿という世の中にはない仕事をしていることまで否定できないし、世の中にはいろいろな生き方があるという意味では、「ホームレス理事長」のような人を番組で扱うのはいいことだと思っています。同時代に同地域で生きている人間の営みに注目していくというのが、地域のメディアの一番大事なことだからです。
それに、テレビが成功者ばかりを扱っていると、「どうせまた、きれいな予定調和の物語なんでしょ?」と視聴者が思い始める。そうなると「テレビなんて、もう見なくてもいいや」と、なりますよね。