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縮小していくビジネスモデル、増え続けるタブー…「さよならテレビ」のプロデューサーに聞いた「テレビの未来」

東海テレビゼネラルプロデューサー・阿武野勝彦氏インタビュー #2

2021/06/19
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縮小するテレビのビジネスモデルと可能性

――今回の著書『さよならテレビ』を読んで、特に惹かれた未見の作品は「長良川ド根性」(2012)です。東海テレビの地元を取材したものですね。河口堰建設の反対する漁師たちに対して「一漁協のエゴ」「補償金の吊り上げが目的」などと非難が浴びせられているなかで、その漁協を取材したものとあります。

阿武野 これは漁師って、いったいどういう暮らしをしているんだというのを取材したものです。長良川の河口堰建設に賛成・反対だとか一旦おいて、第一次産業の根っこにある考え方を取材して、地元の名産品である桑名のはまぐりを、一方では守り育て、また一方では生活の糧として獲っては市場に送り出す、そういう漁師たちの春夏秋冬をきちんと番組として残したいなと。

 それが国策の暗部、政治家の言葉の軽さ、そういうものを照射するんじゃないかと思って作ったものです。

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――東海テレビに触発されたのか、地方テレビ局のドキュメンタリーが映画として公開されるのがひとつの潮流にまでなっています。

阿武野 地方局には日本の今を描こうとして奮闘している制作者がいて、きちんと取材を続けて素材を溜め込んで作品と出せる、そういう番組制作をする技術があるという証です。

 いまのテレビ局のビジネスモデルは確実に縮小していて、多メディア時代のなかでテレビの存在は没落していきます。それでもテレビ局に可能性があるとしたら、制作者たちがこれまでにたくわえてきた番組制作の技術です。番組制作を外部のプロダクションに丸投げしているようなところはこの先、淘汰されるのでしょうね。映像の出しどころがテレビしかなかった時代でなくなると、制作会社は資金の潤沢で、自由な配信系のメディアへと鞍替えしていきますから。

 

――東海テレビのドキュメンタリーは、2011年に戸塚ヨットスクールの現在を描いた「平成ジレンマ」を始まりとして、すでに13本を劇場公開しています。このモチベーションはなんでしょうか?

阿武野 ドキュメンタリーをテレビ放送後に映画として公開するのは、ただ一点多くの人に見てほしいからです。それに映画になったことで作品の命が長らえますから。一般にドキュメンタリー番組は、会社のなかでは「アーカイブ」みたいな扱いになって、素材の墓場と僕は呼んでいますけれども、映像倉庫に入れられてしまう。開局○周年などのときに、誰かが「それじゃあ賞を獲った作品を放送してみるか」と言わない限り、二度と放送されないものなんです。

 先日も、「約束 ~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~」が横浜で上映されました。2012年テレビ放映の作品に200人くらいが来て見てくれたんですよ。こんな幸せなことはない。この事件を知らない人にも知ってもらえますしね。

写真=平松市聖/文藝春秋

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