「セシウムさん」事件や局内の派遣問題などテレビ局内の問題を生々しく映しだした「さよならテレビ」、暴力団の二次団体の事務所を取材した「ヤクザと憲法」などの多くの作品を生み出し、テレビ発のドキュメンタリー映画として劇場公開してはヒットを続けている東海テレビのゼネラルプロデューサー・阿武野勝彦氏。今月、そのドキュメンタリー一代記とも言える著書『さよならテレビ』(平凡社新書)が刊行された。
番組のタイトルは戒名だという阿武野氏だが、「テレビの今」と書かれた番組企画書を見て「さよならテレビ、だね。それは……」と思わず言ったテレビマンに、ドキュメンタリーやテレビ局、視聴者との関係について話を聞いた。
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――東海テレビのドキュメンタリーは、「人生フルーツ」(2016年テレビ放映)のように放送エリアの人を題材にしたものもあれば、「ヤクザと憲法」(2015年テレビ放映)のように大阪の暴力団事務所を取材したものもあり、題材を日本全国に求めていますね。
阿武野 東海テレビには、伝統的にエリアの内へ向かうベクトルと外へのベクトルの両方があります。北朝鮮に何度も行って「よど号」ハイジャック事件の赤軍派を取材したドキュメンタリーもあるし、タクラマカン砂漠を取材した番組もあるんです。遠いところへ取材に行こうとするとおカネのことはありますけれども、その予算のなかでやる分には誰も文句は言わない。だから取材場所、取材対象についてのしばりはないんです。
「犯人は鬼畜だ」の声のなかで“踏みとどまる”方法
――山口県で起きた光市母子殺害事件を題材にした「光と影」(2008テレビ放映)もあります。残虐な事件であるうえ、法廷で被告人が弁護人の質問に「屍姦行為は死者を生き返らせるための儀式」と述べるなどして、世の中では憎悪が沸き立っていました。そんななかで弁護団を取材しています。
阿武野 当時、「犯人は鬼畜なんだから、さっさと首を吊ってしまえ」「鬼畜を弁護する弁護団も鬼畜だ」みたいなことが言われていましたよね。それでは「裁判は要らない」と言っているようなものです。そうした裁判制度そのものを否定する方向に世論が流れていくのに対して、自分たちはその濁流のなかで踏みとどまる方法を考えたいと思いました。