「華やかな世界だと思っていたけれども、私の会社と変わらない」
――「さよならテレビ」は、制作開始後から完パケ、放送後も、東海テレビ内で批判され続けますね。
阿武野 社内の一部からは「失敗した姿を晒した」とか「仲間を売った」とかかなり激しく言われましたね。これを放送して世間からも総攻撃を受けるとなったら、その時はいさぎよく会社を辞めようと心に決めていましたけれども、意外とそうでもなく、賛否6:4くらいだった。「よくぞ見せてくれました」もあれば、「なにを言いたいのかわからない」もあり、本当にいろいろな意見がありました。
中でもいちばん印象的なのは「華やかな世界だと思っていたけれども、私の会社と変わらないんですね」という共感でした。そうなんです。テレビ局の中でもいろんな人間が、いろんなミステイクが起こったりして、ごつごつぶつかり合いながら奮闘しているんです。
――そうした局内の評判とはウラハラに、テレビ関係者などのあいだで評判となり、放送を録画したDVDが出回るなどして、いつ映画館でやるんだと言われるようになりますね。
阿武野 それで、もっと広く「東海テレビはこういうテレビ局なんです」と言ってやろうという思いで、映画版を作りました。この作品は、今の世の中、なにか不祥事が起きるとすぐに隠蔽する方向に動くけれども「私たちは裸になれる会社です」と表明しようじゃないか、裸になれるほうがはるかに共感を得られるはずだ、そこから始めたらどうだろう?というドキュメンタリー・スタッフからの宣言でもあります。ドキュメンタリー映画は1万人超えたらヒットと言われていますが、「さよならテレビ」の映画版は4万人くらいに見てもらえました。
東海テレビを受ける就活生の半分以上が口にする言葉
そういえば、今、東海テレビを受けにくる就活生の半分以上は、「『さよならテレビ』を放送した局だから」と言って来るそうです。それは「華やかな職場です」みたいな虚構の姿なんかじゃなくて、裸の東海テレビを見せたからですよ。
こうやって若手が入って来ると、作品をあれだけ批判していた社内の評価もひたひたと変わっていきます。こんなふうにドキュメンタリーは放送し終えたあとも、作品の解釈や評価は変わっていくことがある。だから制作者は「すぐにわかってもらいたい病」になってはいけない。評価の固まった工業製品を送り出しているのとは違うんです。