遺体を前に泣き出す新人も
宮本 私の場合、座学で何かを学ぶのではなく、現場に行って実際に先輩の技術を見て学び取るというかたちでしたね。
――ご遺体を目の前にするわけですが、すべての新人納棺師が冷静に学ぶことができるものなのでしょうか?
宮本 正直、適性は個人差があると思います。これまで見てきた新人で大きく取り乱したりする人はいませんが、周りに聞いた話では、やはりどうしてもご遺体を前にして泣き出してしまったりする人もいるみたいですね。
――これまでお話を伺ったなかで、お若くして胆力がある宮本さんには驚かされてばかりです。こうした肝の座り方は、どのように獲得したのか気になるところです。
宮本 たいていのことにあまり動じないのは、私の特徴のひとつかもしれません。きっかけになったのは母の事故でしょうか。
私が小学校高学年から中学生くらいのときに、父が病気を患って仕事をするのが難しい身体になってしまい、家庭内の雰囲気や暮らし向きがあまりよくなくなったんですよね。
その頃、父はどんどん自暴自棄になっていって、そのうち家族に対して手をあげるようになって。あまりにも酷かったので、私と母は母子寮で暮らすことになったほどです。当然、私が通う中学校にも事情は共有されて、父から連絡があっても私に直接会わせないなどの対策が取られているところでした。
そんなとき、父から中学校に「母が事故に遭ってたいへんな状態だ」という電話がかかってきたんです。訝しげに思いながらも伝えられた病院へ向かうと、トラックにはねられたという母がICUの中で包帯をぐるぐる巻きにされていました。
人の生死の境に立って、たいていのことには心を動かされなくなりました。過去の境遇と現在の職業を安易に結びつけようとは思いませんが、もしも私がご遺族やご遺体と真摯に向き合えているとすれば、過去に経験した悲しみが、無駄ではなかったのかもしれません。
――そうした個人的な経験を仕事に活かされているんですね。その他、遺体を修復するうえで宮本さんが大切にしている矜持はありますか?
宮本 ご遺族のなかにある故人の面影を取り戻すためには、何だってやるのだという強い気持ちです。
――とはいえ、気持ちを強く持つだけではどうにもならない面もあるのではないでしょうか。遺体の状態はさまざまでしょうし、「こうすればいい」というセオリーも存在しませんよね?