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「ネットで『納棺師 求人』と検索して…日本画家志望の19歳女性はなぜ“遺体修復”を職業にしたのか

「ネットで『納棺師 求人』と検索して…日本画家志望の19歳女性はなぜ“遺体修復”を職業にしたのか

宮本千秋インタビュー #2

2024/05/21
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宮本 そうですね。ガンなどによる羸痩(るいそう[注:やせ衰えていること])を伴ったご遺体の場合、「ご遺体に使うフィラー(注:充填剤)で少し膨らませ、元気だった頃のお姿に近づける」といったセオリーはあるものの、実際に必要なのは面影を再現するためにケースバイケースで考えることです。

メイクの様子

ーーそのために必要なのは術者の技術でしょうか。

宮本 もちろん技術を磨くことは大切です。ただ、私はそこだけに腐心してはならないとも思っています。どんなに美しくご遺体を修復しても、ご遺族からみて別人に見えてしまっては、故人の面影を取り戻せたとは言えないですからね。ご遺体を作品のように扱って独りよがりな修復をするのではなく、あくまで遺された方のお気持ちを第一に、故人の面影を取り戻すよう努めています。

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「最低限」の葬儀とは?

――その他に、日々の仕事で感じられる困難はあるでしょうか?

宮本 エンゼルメイクや遺体修復が葬儀において「最低限」なものとして認められていないことへのもどかしさはありますね。

 故人が生活保護の方であって、ご遺族も生活保護を受けている場合、葬祭扶助といって葬儀費用の捻出を認める制度があるんですが、葬祭扶助の範囲は多くの場合、僧侶などによる読経も認められないと聞きます。当然、エンゼルメイクや遺体修復は適応範囲外です。

 

「最低限」という言葉をどのように解釈するかは難しい部分もありますが、メイクや修復は故人が生前親しくされた人とお別れをする際に必要な準備ですし、人間にとってもっとも大切な「尊厳」を守る重要な工程だと思います。これから社会的な理解が進み、弱い立場の人が最期の瞬間まで生前の葛藤を抱えなくて良い制度が確立されると嬉しいですね。
 
◆◆◆

 通常、人間関係は生きているときに育まれるが、納棺師の場合は違う。故人に語りかけ、生前の顔を取り戻し、尊厳を再獲得するまでの旅路に随行する、稀有な職業だ。

 宮本氏が目指すのは、単なる遺体修復ではなく、その先にある遺族のケアと故人の尊厳の保護。生前にどんな立場であっても、そこに差異を設けない。「そうそう、こんな表情してたよね」。氏の技術が故人と遺族に、二度と戻らないかに思われた時間を蘇らせて彩りを加える。

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