「日本一」の意味
それから10年以上の時が過ぎ、私は会社を辞め、別の道へと進んだ。A先輩とのやりとりも次第に少なくなっていった。
2022年の日本シリーズ第7戦。私は悲願の「日本一」を目の前で見届けた。神宮球場のレフトスタンドは、見たことのない数のオリックスファンで埋め尽くされ、私の後ろには懐かしいユニフォームを着た近鉄オジサンが座っていた。
日本一の瞬間、私はその見ず知らずの近鉄オジサンとハイタッチをしながら、オリックスと近鉄が、20年という長い年月をかけて、ようやく一つになれた気がした。私の中で、合併という負の歴史が一つの幕切れを迎えたのだ。
中嶋監督の胴上げを見届け、千駄ヶ谷駅に向かう帰り道、私は久々にA先輩にメールを送った。
「26年ぶりの日本一、長かったですね」
「おめでとう、バファローズ初の日本一だけどな」
やっぱり一つにはなれないのかもしれない。ただ、この短いやりとりが、たまらなく嬉しかった。
悲しみを繰り返さないために
合併を許してはいけない。今でもその考えに変わりはない。球団の赤字経営という当時の課題は、NPBや各球団の努力により改善され、もう二度と合併という悲劇は起きないと信じたい。
しかし、歴史は繰り返すものだ。それを防ぐために、私たちにできることといえば、今日もスタンドに足を運び、大きな声援を選手たちに送ることしかないのだろう。
でも、京セラドームのライトスタンドで「いてまえ~」と叫ぶのは、まだちょっと抵抗があるのだけど……。
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