高齢になると、長年使った入れ歯が合わなくなることがある。合わない入れ歯を使い続けていると、徐々に食事が摂れなくなり、「寝たきり」のリスクが高まる。しかし、「儲からない」とされる入れ歯修理を引き受ける歯科医師はとても少ない。
こうした背景から「入れ歯難民」が後を絶たないが、一部の歯科医師は入れ歯修理に熱心に取り組んでいる。その一人である角田愛美さん(54)は、100%訪問診療の歯科医師で、知る人ぞ知る「入れ歯お治しの達人」だ。
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「入れ歯難民の最後の砦」
角田さんは他の歯科医院で治療できなかった患者でも断らない。いわば「入れ歯難民の最後の砦」だ。
実際に角田さんの治療を見るために同行取材することにした。初日に出会ったのは、やはり「入れ歯難民」の高齢者だった。
「父は、使っていた入れ歯が合わなくなって、噛んで食べられなくなってしまった。近くの歯医者に行っていたらしいのですが、治すことはできないと言われて。それで普通の食事ができずに、どんどん衰弱して、ついに風呂場で転倒して救急車で運ばれた。すぐに退院はできたのですが、満足な食事ができないので、体は衰弱したまま。ベッドから起き上がることもできない『寝たきり』状態になってしまいました」
こう話すのは、江東区で一人暮らしをしている富永庄吉さん(仮名・88)の息子、和樹さん(仮名・60)だ。近くに住む和樹さんは月に数回、父の様子を見に来ていたが、入れ歯の状態には全く気付かなかったという。
「寝たきりになってしまった父に話を聞くと、元のように普通の食事がしたいと。そう言われても、入れ歯のことを誰に頼んでいいかわからない。そこで、知り合いのケアマネさんに相談してみたんです」
そのケアマネの紹介でやってきたのが、角田さんだった。歯科衛生士と2人でやってきた角田さんは、元気なくグッタリとする庄吉さんの口の中を見て、開口一番言った。
「お父さん、これは酷いわ。口の中、ボロボロやん。どうして、こんなに我慢していたの? 我慢し過ぎだよ。痛いよね。これじゃ、噛めないよね」


