約30年苦しんだデフレから脱却しつつある日本にとって今最も必要なことは一体何か。日本経済はもう一度持続的な経済成長を遂げることができるのだろうか。コンサルタントとして活躍する齋藤ジン氏が考える政策を「超インフレ時代を生き抜くための新・投資入門」(文春MOOK)より一部抜粋し、お届けする。(全3回の3回目/最初から読む

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政策の適切な切り替えで円と物価は安定する

 現在の日本のマクロ経済政策の組み合わせは、依然としてデフレ対応型です。それは短期的に美味しい結果に繋がっているので、政治的にこれを維持するインセンティブがあります。具体的には、インフレによって名目成長率が力強く上昇している一方、政策金利※1は意図的に低く抑えられているので、この差によって税収が拡大しています。実際、日本のGDPあたりの財政収支改善率はG7の中で最善です。つまりインフレ税収によって、痛みを伴う取捨選択をせずに、財政拡大が可能な環境なのです。

 しかしインフレ環境と意図的な低金利の矛盾は円安と長期国債売りとして表れています。市場は、金融政策の正常化が遅すぎるので、将来的に時限爆弾が破裂するリスクを警告しているのです。

齋藤ジン(さいとう・じん)在ワシントンのコンサルティング会社共同経営者。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士。投資関連コンサルティング業務を営む米国のG7グループなどを経て、2007年、オブザーバトリー・グループを米国で共同設立。ヘッジファンドを含むグローバルな機関投資家に対して、各国政府の経済政策分析に関するコンサルティングを提供。

 このアプローチは最終的に持続不可能であり、「借りた時間」です。時間の経過と共に、インフレ税収に対し、国債利払いコストの増加が追い付くからです。

 高市早苗総理のマクロ経済政策ミックス、いわゆるサナエノミクスは、高い名目成長、低金利、そして為替の安定という、本来両立し得ない三つの果実を同時に得ようとするものに見えます。それが続くうちは美味しいアプローチですが、中長期的には足し算として成り立っていません。

 そこでベッセント氏は、円と物価を安定させるためには、日本銀行に政策余地(ポリシー・スペース)を与えるべきだと指摘しています。このアプローチを長く続ける場合、最終的に非常に高い水準まで政策金利を引き上げざるを得なくなる可能性を高めるからです。

 だからと言って、日本でも「トラス・ショック※2」が今すぐ起きるとの指摘は、危機感を煽り過ぎでしょう。イギリスはトラス政権が打ち出した減税政策と財源の裏付けがない財政出動案に対し、市場が財政破綻の懸念を抱き、英国債とポンドが急落しました。足元の長期日本国債と円売りと同じ方向性の話ですが、イギリスと違い、日本は経常黒字国なので、環境が異なります。

 いずれにせよ、重要なポイントは、インフレ税収ボーナスがある内に、自発的にマクロ経済政策ミックスを修正し、中長期的に持続可能なものにしていく努力です。高市総理が食料品に限定した消費税減税を実施し、それを給付付き税額控除に乗り換えるのであれば、この歳出は恒久的なものになります。またアメリカは日本が防衛費をGDP比で5%に引き上げることを求めていますが、これも恒久的な歳出です。両者を足すと、大雑把に25兆円規模の追加的な恒久歳出の財源をこの先見つけていく必要があるのです。

 これはインフレ税収ボーナスで賄いきれるものではありません。逆に時間を借りることができる今だからこそ、歳出に優先順位をつけつつ、金融政策を正常化することは、日本経済の中長期的なバランスをより持続可能なものとします。それがベッセント氏の指摘の趣旨です。