国民的ホームドラマ「渡る世間は鬼ばかり」などを手掛けた石井ふく子プロデューサーの生誕100年を記念して、5月22日から「第3回TBSレトロスペクティブ映画祭」が開催される。名作8作品と併映される撮りおろしドキュメンタリーを監督した佐井大紀監督に、「ホームドラマの母」の古びない魅力を聞いた。

佐井大紀監督

「渡鬼」撮影現場で見た石井ふく子の徹底したこだわり

――「TBSレトロスペクティブ映画祭」は初回が寺山修司、2回目が実相寺昭雄を特集しましたが、なんと今回は一転して石井ふく子先生。

佐井 TBSのアーカイブに眠る、トガったクリエーターの知られざる作品を特集上映してきたシリーズですから、ここにきて「ホームドラマの母」かと、確かに「一転」と思われるかもしれませんね。

ADVERTISEMENT

 ただ、寺山や実相寺がある種、露悪的にトガったクリエーターだとすれば、石井ふく子というプロデューサーは穏健だけど凄まじいクリエーターだと思うんです。

 例えば僕は2018年に「渡鬼」でサードADとして石井先生の現場を経験したんですが、タイトルバックのために反物を回してそれを撮影するんです。しかもそれは先生がご自身で用意したもので、着物の帯を実際に回して、いい柄が流れ出てくるといったベストなタイミングを狙う。ここにタイトルや出演者の名前をテロップで載せるわけですが、徹底したこだわりには驚きました。

60年前に「シスターフッド」ものを作っていた

――あのオープニングの、羽田健太郎のピアノが流れるタイトルバックって、毎回背景が違っていたんですか。しかも反物だったとは。

佐井 そうみたいです。もちろん、こうしたこだわりから生まれる尖鋭的なドラマづくりは昔からのもので、今からおよそ60年前のテレビドラマである「女と味噌汁」(65年)などまさに。

 主人公は味噌汁屋を出すことを夢にしている新宿の芸者・てまり。不倫関係にある男の妻が家に乗り込んでくるシーンがあるんですが、そこで修羅場になるかと思いきや、てまりが丁寧に入れた一杯のお茶を出し、「一手間の工夫」に妻が心を動かされ、最終的には女同士が打ち解けていく。寝取り寝取られの関係なのに。

「女と味噌汁」より

 見直してみて、これは今でいう「シスターフッド」じゃないかと思いました。不倫をテーマにしながらも、強い女性たちの自立と連帯が描かれている。バナナを食べながら化粧をするシーン、芸者同士が殴り合うシーンと、今見ても演出が新鮮なんですよね。2000年前後に放送された「アフリカの夜」「すいか」といった女性たちが活躍する名作ドラマを思い出しました。