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藤井竜王「3つの武器」|杉本昌隆

師匠はつらいよ 第31回

杉本 昌隆
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 藤井聡太新竜王の誕生から数日経つ。テレビ、新聞、ラジオでは連日この話題が取り上げられた。きっと今は色々な雑誌にも掲載されていることだろう。

「竜王と名人と三冠と八段(私)では、誰が一番格上なのですか?」

 タイトルの解説をしているときに時折聞かれる。

 棋戦の序列は竜王、名人の順(タイトルとしては同格)。席次では次に三冠。竜王、名人以外のタイトルを複数持っていたとしても、それより上……竜王、名人が別格のタイトルとされる所以である。

 なお竜王対名人の対局では、保持しているタイトルの総数で上座が決まる。これが同数の場合、棋士番号が若い(棋士になった日が早い)ほうが上座となる。

 藤井竜王はタイトルを四つ保持し、渡辺明名人の三冠より一つ多い。なので藤井竜王が序列1位で事実上のトップになるのだ。

 ちなみに私の「八段」も段位は高いが、タイトル保持者と比べてしまうとまあ……平社員ですな。

 さて、これだけの偉業である。今回は、改めて藤井将棋の強さを述べてみたい。

1 相手に威圧感を与える長考

 一般的に相手の長考はありがたいものである。

「しめしめ、相手は次の正解が分からず迷っているに違いない」

 残り時間が切迫すれば間違いも起きる。しかし藤井竜王は秒読みに追い込まれるのを苦にしない。なので相手が受ける印象も変わる。

「藤井竜王が1時間長考? 早くも勝ちを読み切ろうとしているのでは?」

 藤井竜王の考えている姿そのものが相手への威圧感になるのだ。

2 常識を越える感性

「普通はこう指すよね」

 感想戦等でよく言われる言葉。無難だから、前例があるから、人により理由は様々。だが、そんな常識に挑戦するのが藤井将棋だ。

 今回の竜王戦第二局で現れた「☖7一金」もそれ。意表をつくが深い研究と読みに裏付けられている。奇をてらった指し方はせず、常にまっすぐなのだ。

3 正確無比の終盤力

 将棋の終盤は「悪手の海を泳ぐようなもの」とも言われる。4~5通りの候補手が浮かぶある場面。正解は一つだけで後は全部負け、これがひたすら続くのだ。

 藤井竜王は詰め将棋で鍛えた読みの能力により、終盤のミスが極端に少ない。

「藤井相手に互角の終盤では勝てない」

 ときにこんなことさえ言われる。その真意は、こちらは悪手の波に飲まれてしまうが、藤井は決して間違えないから。棋士が脱帽するほどの信頼感があるのだ。

 タイトルが動いた竜王戦第四局の最終盤、実は難解ながら豊島将之前竜王にチャンスが訪れていた。

 究極の2択で選んだ手が結果的に敗着で、勝利の女神は藤井に微笑む。勝負のアヤは紙一重だとあらためて思ったものだ。

 まだ19歳、これからもタイトルを増やし続けるのは間違いなく、他の棋士からすると(藤井竜王を倒さねば自分たちの未来はない)との思いであろう。

 若きトップの誕生。競争は激しくなるが、ますます活性化しそうである。楽しみだ。
 

近江カズヒロ

source : 週刊文春 2021年12月2日号

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