チュートリアルの福田充徳は、どこかでこう安堵してもいた。

「決勝に残らんでよかったと思いましたね。出とったら、こんなやつらと勝負せなあかんかったのかって」

 2003年12月28日。場所は、パナソニックセンター東京というショールーム内の出場者控え室だった。2002年から2004年まで、M-1の敗者復活戦は、同施設の野外ステージで行われた。夜に行われる決勝が、隣接するパナソニックセンター有明スタジオで開催されていたためだ。

 チュートリアルは、M-1において未来永劫、語り継がれる名コンビだ。ただ、この時点では、まだ何者でもなかった。準決勝で敗退し、敗者復活戦でも最後の枠を逃した。敗者復活戦の勝者は、決勝の2組目がネタを終えたところで発表された。名前を呼ばれなかった58組のその後は2つに割れた。控え室のテレビで決勝を観戦するか、家へ帰るか。福田は前年同様、後者を選んだ。

 ところが、控え室に戻り、決勝が映し出されていたモニターが目に入ると、その場から動けなくなってしまった。黒い革ジャケットを着た長髪の男と、黒いスーツを着た短髪の男が、しゃがんだり立ち上がったりしながら大爆笑をさらっていた。

 4番手のコンビ、笑い飯だった。福田は、何よりもまず、その設定に度肝を抜かれた。片方は、奈良時代の生活を再現する自動人形の役。もう片方は、その様子を解説する自動音声の役。「代われ!」などと罵りつつ、その役を交互にやり合っていた。のちに「奈良県立歴史民俗博物館」と呼ばれるネタだった。福田の回想だ。

「西田(幸治)の長髪と、歴史の教科書に出てくる石器時代かなんかの、後ろで髪を括って農作業してる人のイメージも重なって。全部ひっくるめておもろかった。初っ端、あいつがしゃがんだだけでウケとったでしょ。『パパパー』ってやっただけで」

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source : 週刊文春 2022年1月20日号