またしても、決勝の舞台でネタを変更した。POISON GIRL BANDのネタ作りを担当している吉田大吾の回想だ。吉田は182㎝という高身長ながらも、威圧感のようなものは微塵も感じさせない人物だった。
「準決勝でやったネタは、めちゃくちゃウケたんですけど、ちょっとやりにくいネタだった。相方も楽しそうじゃなくて。それが怖くて、だったら、いつもルミネ(東京・新宿「ルミネtheよしもと」)でやってるネタの方がやりやすいかなって」
2006年12月24日。クリスマスイブに開催された6回目のM-1決勝で先陣を切ったのは「ポイズン」こと、POISON GIRL BANDだった。東京出身の吉田と、宮城出身の阿部智則の漫才は、声を張らない。どこか醒めていた。漫才の世界で言うところの「ローテンション漫才」であり、「引きの漫才」だった。
03年から20年までM-1に携わっていた朝日放送の田中和也は、M-1で勝つ条件として、それとは正反対の要素を挙げる。
「M-1で優勝している人らに共通しているものは、熱なんですよ。今や超売れっ子の千鳥も、M-1ではなかなか結果を出せなかった。彼らもM-1では、その熱をうまく出せていなかったと思うんです」
熱を感じさせるには、そのスタイルが重要になる。ブラックマヨネーズや笑い飯のような「ケンカ漫才」は、まさに打ってつけだった。そこへ行くと、ポイズンは圧倒的に不利だった。M-1の歴史上、おぎやはぎがそうだったように、静の漫才が評価されたことはほぼない。おもしろいおもしろくないではなく、熱が伝わりにくいのだ。
06年のポイズンのネタは、彼らにしか出せない不思議な味わいがあった。テーマはファッションで、ズボンの代わりに、なぜか「マグロをはく」という方向へ展開する。ただし、審査員7人の評価は計「570点」と低かった。吉田がこぼす。
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source : 週刊文春 2022年2月24日号