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 唐突に、「阿部定」さんについて調べた夜がある。テレビ番組でタレントさんが、「今の若い人は阿部定を知らない」と言っていた。彼女のことを調べてみようと興味を持ったのは、今では神のお告げだったとすら思う。なぜなら彼女は、自分がこの先演じる役と、あまりにも似ていたから。

「性行為中に愛人を絞殺し、局部を切り取った」という彼女の犯行は強烈だった。男性ならばきっと血の気の引くような行為にもかかわらず、「純愛だ」と彼女に心酔した人たちがいたことも。

 私は、これを“純愛”と解釈することに違和感を持った。私には、彼女の行動はどうしようもない“怒り”に映ったからだ。相手への個人的な怒りに留まることのない、もっと強く、強烈に根深い怒り。この怒りの正体は、彼女が少女期に体験した性的暴行に由来するのだろうかと思い至った。私はこのとき頭が狂いそうになるほど、彼女の苦しみと同化した。それは結局、私自身の苦しみが彼女によって誘発されたに過ぎないけれど、もしも彼女の苦しみを、私が少しでも理解してしまったのだとしたら――。

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source : 週刊文春 2022年11月10日号