アスファルトを敷く重機が煙を立ててやって来た日、「近代が来た!」と(笑)。|佐藤信介

新・家の履歴書 第833回

吉田 大助
ライフ ライフスタイル

(さとうしんすけ 映画監督。1970年、広島県出身。94年、『寮内厳粛』でPFF94グランプリ受賞。2016年公開の『アイアムアヒーロー』で世界各国の映画賞を受賞。20年12月公開のNetflix『今際の国のアリス』は非英語シリーズでグローバルTOP10入り。7月28日『キングダム 運命の炎』公開。)

 

 実家は中国山地のど真ん中、山奥に4軒だけの小さな集落にありました。見渡す限り大自然で、混じりっけなしの田舎。小学校高学年の頃までは道も舗装されていませんでした。アスファルトを敷く重機が、煙を立ててやって来た日のことはよく覚えていますね。「近代が来た!」と(笑)。

 7月にシリーズ第3作が公開予定の映画『キングダム』、世界各国のNetflix視聴ランキングで1位を獲得したドラマ『今際の国のアリス』。日本の大人気コミックを原作に、ハリウッド級映像作品を次々と世に送り出している佐藤信介監督は1970年9月16日生まれ。出身は広島県比婆郡東城町(現・庄原市)だ。

 もともと父方の祖父がこの辺りの地主だったんですが、父が中学生の時に祖父母ともに病気で亡くなってしまった。父はアメリカのポートランドに移り住み、アメリカの家族に育てられ60年代の終わりに帰国して母と出会い結婚、広島県福山市で通訳の仕事をしていました。ただ、自然が多い環境で子供を育てたいという意向があり、僕が2歳の頃にここへ引っ越してきたんです。両親は農業を一から勉強して、米作りと野菜作り、林業にも手を出して。それだけでは食べていけないので、父は近隣の町で英語塾を開き、多くの中高生を教えました。

 家は築百年ぐらいの二階建てで、とにかく広かった。玄関を入ると土間があって吹き抜けの天井が高くて。一階は居間、奥の間、和室、物置がそれぞれ十畳ずつ。二階にも4部屋あり、家族3人それぞれの部屋として使っていました。離れの小屋ではヤギを飼っていて、裏庭に放していた鶏は、僕が世話をする替わりに、親に卵を1個10円で買ってもらえる約束でした。

登下校の田舎道で空想の映画を想像し、部屋ではジオラマ遊びで物語を考える

 お風呂は薪で沸かしていました。薪と一緒に夏はトウモロコシやナスなどを焼いて食べるのが美味しくて。実は、その家は薪ストーブの故障で20年ほど前に全焼してしまったんです。同じ場所に平家を新築する際、焼け残った栗の木の大黒柱が硬すぎて、解体工事の時にショベルカーが壊れてしまったそうです。

 77年、家から徒歩30分の町立森小学校に入学。83年、自転車で20分の町立八幡中学校に進学。子供の頃から映画が大好きだったが、最寄りの映画館までは車で2時間かかった。

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source : 週刊文春 2023年6月8日号

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