昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「正しくない」恋愛は「正しさ」と紙一重かもしれない

作家・島本理生が語る「恋愛という物語」

お酒、弱くなりましたよ……

——意識的にお酒やごはんを小説の中に描き始めたのはいつ頃からなのでしょう。

島本 デビューしてからずっと、私は意識的に入れていますね。十代の頃、江國香織さん、山田詠美さんの作品を読んでいると、お酒の場面がよく出てきたんですよね。バーのカウンターとか、知らない名前のカクテルとか、家の中でシャンパンを開けるとか、大人ならではの自由さやかっこよさに憧れて、自分もそんな場面を描きたいって思っていました(笑)。

——家飲みはするんですか?

島本 子供が生まれてからは、9割9分、外でだけですね。前は家でも飲んでいたんですけど。

 

——島本さんは昔からお酒が強くて。

島本 いえいえいえいえ……。弱くなりましたよ(笑)。

——アボガドが来ました。2種類の酒粕に漬け込んだそうです。

島本 いいですねー。いただきます。

——日本酒をお好きになったのはいつ頃なんですか?

島本 高校の先生が日本酒好きで、私たちが成人した後に同窓会を兼ねて日本酒を飲ませてくれる会を開いてくれたんです。いろんな日本酒を利き酒のようにして試していたら、みんな見事に泥酔しちゃって(笑)。でも、初めて飲む日本酒は本当に美味しくて、それ以来、ずっと好きなんです。

 

——素晴らしい先生ですね。

島本 川上弘美さんの『センセイの鞄』が大好きな先生で、きっとあのセンセイみたいになりたかったんでしょうね(笑)。私たちの知らないところで、先生は「センセイ気分」で和食屋さんのカウンターに一人、背筋をしゃんと伸ばして座っていたのかもしれない。

どうして「家計簿」の場面を入れたのか?

——この短編集にはお金の話が結構出てくるのも気になりました。慰謝料、引っ越し費用、手切れ金……。

島本 今回は結婚をテーマにいろいろ書いてみようという試みでもあったんです。恋愛と違って、結婚はお金と強い関係がありますよね。しかも生々しい形で。結婚というものをより現実的に描くのにお金はとても効果的な小道具だな、とあらためて思いました。

——「旦那さん以外に抱かれたいと思ったことはないの?」という問いかけから始まる「足跡」は、既婚者である千尋が友人に紹介された「診療所」に通い、そこで受ける真白という男性の「治療」に引き込まれて行く一編です。その“行為”が終わったら治療費を支払うわけですが、その後に家計簿をつける場面に移りますよね。

島本 ああ、そこはお金が持っている現実への引き戻しが強く出ている場面かもしれませんね。実はこの短編には「千尋が支払っている治療費はどこから捻出したものなのか?」を探り合うような場面もあったんです。でも、全部で6編ある短編集の中に、けっこうお金の話をちりばめているので、ちょっと多くなりすぎるかなと。それで削ったんです。

 

——家計簿の話が入り込んできて、ふっと現実感というか、千尋は人の妻であることが目の前に立ち現れてくるような感覚がありました。

島本 こういう現実的なものを小説に入れないと、物語がファンタジーに寄りすぎるというか、読者にとって他人事になってしまうと思ったんです。それで、あえて家計簿という道具を入れてみたんですよね。