昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/01/05

走ったあとの晩酌が生きがい

 現在の職場は残業も多いため、練習のベースは「通勤ラン」なのだという。キツめのトレーニングは週1回やれれば良いという状況なのだそうだ。

「昔は自分にこんな記録が出せるなんて全然考えたこともなかったです。でも、1秒でもいいから過去の自分を超え続けたいと思ってやっていたらここまで伸びていました。自分で『これ以上は無理』という限界を作らないことも重要なのかもしれません」

 走ったあとの晩酌が生きがいで、レース前も禁酒はしない。そんな「楽しみ」をいかに見出すかも市民ランナーには重要だと利根川は言う。

「市民ランナーが記録を伸ばすには、たくさん大会に出ることが一番だと思います。大会で走れば悔しい想いや、嬉しい想いを積み重ねることができるし、ランナー仲間も増えて行く。そういう部分でモチベーションも保てるし、走る楽しさも感じられるのではないでしょうか」

 50代が見えてきているが、まだまだ記録は伸ばせるつもりでいるという。

「私たちの世代が若いころには長距離に体幹トレーニングなんてなかったですからね(笑)。そういう部分を組み込んで取り入れることができれば、自分にもまだまだ伸び代はあるんじゃないかと思っています」

 彼らの尽きない向上心は、さらなる好記録を予感させてくれる。そしてその背中を追って、また若い世代の市民ランナーたちも自己記録を更新していくのだ。長野県内のある30代の市民ランナーはこう語っている。

「同じ県内にあの年齢であれだけ走る選手がいると、すごく希望になりますよね。『自分もあそこまでは何とか続けよう』『あの記録を出そう』と目標が持てますから」

 

最新の器具や設備・練習法がなくとも

 そんな切磋琢磨が生むタイムには、数字以上の強さを感じずにはいられない。最近、日本の長距離界は少しずつ過去の隆盛を取り戻しつつある。その核となるマラソン勢を見ると、大迫も設楽悠太(HONDA)も川内優輝(埼玉県庁)も、それぞれ独自の色を出したトレーニングスタイルだ。ただコーチの指導を受け入れるのではなく、自分の身体と相談し、自分の頭で考えながら練習を組み上げ、記録を伸ばしてきている。

 今回、市民ランナーたちの話を聞いて感じたのは、そういったハイレベルなランナーたちにも通じる要素があるということだ。最新の器具や設備・練習法がなくとも、記録を伸ばしていくランナーたちはいる。

 逆に恵まれた環境が揃っていても、与えられたことをただ「こなす」だけでは成長できないのかもしれない。そこには、伸び悩む多くのトップランナーたちも立ち返るべき要素が詰まっているような気がした。

 利根川は言う。

「きっと若くて才能のある実業団ランナーの中にも、考え方を変えたらガラッと伸びるような子もいると思います。やっぱり大人になっても『やらされている練習』ではどうしても限界がある。私たちの年代でもまだまだ伸び代はあると思っているので、若い世代なんていくらでも成長できますよ(笑)」

 きっとおじさんたちは今日も寒風の中、少ない時間を見つけて、走っているのだろう。そのカッコいい背中を、後続達に見せつけながら。

この記事の写真(7枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー