昨年は米中間の緊張関係が「新冷戦」などと報じられました。トランプ政権になってから、米国はすでに対中輸入2500億ドルに追加関税を課しており、それに対して中国も報復関税を課しています。12月1日の米中首脳会談では、対中輸入2000億ドル分に対するこれ以上の関税の引き上げが、ひとまずは90日間延期されました。

「新冷戦」は関税戦争に限りません。中国の通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の最高幹部がカナダで逮捕された件でも、ファーウェイのイランへの制裁違反容疑などを米国が2年以上前から捜査していたことがあきらかになりました。また、11月からは外国企業の対米投資規制が強化され、中国企業がアメリカ進出しにくくなりました。他にも、米中ともにスパイ容疑をかけては相手国の人を捕まえてみたり、米国ではハイテク関係を学ぶ中国人留学生のビザがなかなか下りなくなっていたり、まさに「冷たい戦争」が進行しています。

9日、米中首脳会談後の共同記者会見に出席したトランプ米大統領と習近平国家主席 ©Getty Images

「新冷戦」の兆しはいつから?

 表向きには、対中強硬の動きが本格的に前に出てきたのは昨年の6月頃からのように見えます。米朝首脳会談の直後の6月15日、自動車や情報技術製品など、中国からの輸入品計1102品目に対し、500億ドル規模の追加関税措置を行うと発表しました。ここからアメリカ側の「どんどん中国を締め上げていくぞ」という動きが始まったと解釈する人が多い。

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 しかし、「新冷戦」の兆しはトランプ政権発足当初からありました。トランプ大統領は、「対中国の貿易赤字は是正せねばならない」などといった見解を当選前から示していたからです。ただし、貿易赤字がその国にとって有害であるという見方は、学術的にはほとんど支持されていないのですが。

政権内の2つの動き

 政権内では、対中強硬への本格的な動きが2017年の夏頃から2つありました。1つはピーター・ナヴァロという人物の台頭。ナヴァロ氏は、カリフォルニア大学アーバイン校の名誉教授で経済学者なのですが、トランプ同様に貿易赤字を問題視するなど、学術界では異端とされてきた人です。『チャイナ・ウォーズ』(イースト・プレス)や『米中もし戦わば』(文藝春秋)などの著書で繰り返し中国の脅威を主張しています。トランプ大統領の当選前からトランプ陣営に所属し、政権の保護主義的な貿易戦略のブレーンだとも言われてきました。政権発足当初は冷遇されていたのですが、政権幹部が次々と辞めるにつれ出世し、いまや大統領補佐官に。先日のG20にも出席しました。

ピーター・ナヴァロ氏 ©Getty Images

 もう1つは、官僚や利益団体、シンクタンクの研究員など、政権周辺の安全保障に関心のあるグループが、トランプ大統領やナヴァロ氏の対中強硬姿勢に乗っかったこと。彼らは、中国の企業がテクノロジーなり技術なり、あるいは盗んだ情報なりを吸い上げて、国や軍に渡してしまう可能性があることを安全保障上の脅威として問題視してきました。

 このグループが問題視しているのが、中国による通信覇権です。近い将来普及する見込みの第5世代移動通信システム「5G」で中国企業に遅れを取ることを警戒しています。たとえばこの5Gのネットワークを使ってドローンを飛ばす。飛ばしたドローン同士が互いに通信して、協力して攻撃をしかけたりするのですが、そのときに使う5Gのネットワークが中国のものだったら、やはり安全保障上の脅威になるわけです。

 彼らはこうした懸念を10年以上も前から示していたのですが、近年ファーウェイなどの中国企業による製品が予想以上の速さで増え、レベルも高くなった。安全保障に関心のあるグループにとってみれば、トランプ大統領やナヴァロ氏の中国への反発心は、自身の懸念事項に対処するのに絶好の”乗り物”だったわけです。