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安全保障にWTO改革……“本質”に近づくトランプ政権

 昨年の10月には、ペンス副大統領が演説で中国を「米国の民主主義に干渉しようとしている」などと厳しく批判しました。この演説でも、「米国は、中国に自国の市場へのオープンなアクセスを与え、世界貿易機関(WTO)に招いた。これまでの政権は中国があらゆる形の自由を尊重するようになると期待し、こうした選択をしたが(中略)その期待は裏切られた」など、対中貿易についての話が出てきます。

ペンス副大統領 ©Getty Images

 ペンス副大統領の指摘はまっとうで、中国は自由貿易を掲げつつも、国家資本主義的な体制を維持することでWTO加入以来、莫大な利益をあげてきたわけです。米中の経済があまりに相互に依存しているので、これまでの米国の政権はなかなかそうした中国の矛盾をビシッと批判できませんでした。しかし、トランプ大統領は中国の国家資本主義を批判し、昨年の半ば頃にはWTO脱退をちらつかせさえしています。昨年の11月には、自国産業に巨額の補助金を与えている中国を念頭に、WTOへの通知なしに自国産業に優遇措置を施す加盟国に制裁を科すWTO改革案を日米欧が提出しました。

 まとめると、「貿易赤字を是正しろ」という、トランプ大統領らのちょっと首をかしげたくなる問題意識にさまざまな関係者が乗っかり、中国の安全保障に対する脅威や、国家資本主義の矛盾など、政権全体としてどんどん本質的な問題に切り込んでいっているのです。

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トランプの目は常に国内を向いている

 今回の関税戦争で一つ留意しておきたいのは、トランプ大統領の目が常に国内を向いていることです。たとえば、昨年の7月、報復関税の一環として、中国が米国産大豆への関税を値上げしました。ところが、トランプ政権はこの報復関税が米国の大豆農家を直撃することを見越して、実は大豆農家に補助金をつけています。ですので、国内で関税に直撃された業界も、意外と政権に不満を持っていない。国内で不満が出ないよう、巧みに対策しているのです。

 昨年の3月頃から米国は中国の鉄鋼・アルミニウムに追加関税を課していますが、打撃を受けているはずの米国内のアルミニウム加工業者の人たちと話すと、「減税と規制緩和でなんとかなってる」と言うんです。「政権が中国に対してやってることは正しい。こっちも耐えられるところまで耐えるから、やっちまってくれ」という感じです。

©iStock.com

貿易は譲っても、安全保障は譲らない

 ただし、関税の影響はしばらく経ってから出てくるものなので、2019年には米国国内で関税戦争の影響がより本格的に出てくるでしょう。すでに昨年末の株価の急落もあり、トランプ氏にとっても焦りもあります。トランプ大統領は2020年に大統領選挙も控えていますから、支持者への影響を考えながら、貿易の面では少しずつ取引や妥協をしていくはずです。

 ただ、安全保障についてはなかなか譲らず、強硬姿勢は崩れないと思います。12月の米中首脳会談でも、米国は「米国企業への技術移転の強要」「知的財産権の保護」「非関税障壁」「サイバー攻撃」「サービス・農業分野の市場解放」の5分野で協議することを条件に追加課税に90日間の猶予を設けましたが、「知的財産権の保護」などでは協議の余地があるにしても、「サイバー攻撃」などに関してはそもそも中国がやっていることを認めない。ですから、進展のしようがないですよね。