早咲きがいれば遅咲きもいるのが、ハリウッド。そんな中、コリン・ファースは、永遠の春を謳歌してきた珍しい存在だ。
23歳にして「アナザー・カントリー」で舞台デビュー。翌年には同作の映画版でスクリーンデビューを果たした彼に、ハリウッドスターにつきものの苦労話は無縁。58歳の今も、『キングスマン』『マンマ・ミーア!』のような娯楽作品から、最新作『喜望峰の風に乗せて』のような奥深い実話物まで幅広く出演を続けている。
そしてこの『喜望峰~』での演技が、また凄いのだ。彼が演じるのは、妻子のためにも一花咲かせたいと夢見るビジネスマンのクローハースト。単独無寄港世界一周ヨットレースに賞金狙いで参加を決めるも、肝心の腕はアマチュアレベル。しかし、仕事柄セールスがお得意の彼は、だから面白いのだとそれを売り込み材料にし、スポンサーまで獲得してしまう。ファースに言わせればヒーローとバカは紙一重で、これはその物語だ。
「物語はいつも不可能なことへの挑戦から始まる。リスクはとてつもなく大きいし、愛する人を残して旅立たなければならない。そして、結果によって、英雄と仰がれたり、『ほら、だから言ったじゃないか』と蔑まれたりする。この映画は、そのどちらにも加担しない。この作品で僕らが目指したのは、人間としての彼の心理を理解し、共感しようとすることだ」
映画は、名声の残酷さも描き出す。メディアをスポンサーにつけたクローハーストはたちまち脚光を浴びる。しかし、そのことが彼に大きなプレッシャーを与えるのだ。
「有名になることで自分の価値を見出そうとする人は多い。だが、メディアが求めるのは彼らが欲しい話、売れる話だ。もちろん、クローハーストは自らそこに足を突っ込んだ。左右をよく見ないで道を渡って車にはねられたら、自己責任だと言われるだろう。だが、左右をよく見なかったのは罪なのだろうか?」