世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。
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『幻獣ムベンベを追え』という題名を見て、「幻獣? ムベンベ?」と思う方もおられよう。正式にはモケーレ・ムベンベ。コンゴ奥地のテレ湖に棲むとされる怪獣で、これを追って早稲田大学探検部のチームが敢行する冒険の記録が本書である。
早稲田探検部は作家の西木正明や船戸与一も輩出した名門サークル。世界の秘境辺境を踏査する団体である。本書冒頭、著者らは部の方針を検討する集会で、コンゴの湖に棲息する怪獣の探査プロジェクトをぶちあげる。
計画にはGOサインが出るも、事前準備も一筋縄ではいかない。フランス語の習得、コンゴ政府との折衝、スポンサー探しなどなど難問は山積。無事にコンゴに到着してもテレ湖は遠く、近隣の村にたどり着いたら村長らと交渉をしなくてはならない。言葉もろくにわからないのに!
探検部の面々も大概だが、コンゴ側もお目付け役の学者、通称「ドクター」を筆頭に怪人ぞろい。湖畔にキャンプを張った探検隊は凶悪な虫に刺されてデコボコになり、高熱で体調を崩せばコンゴ式熱さまし法が施され、ポピュラーなおかずはサルを焼いたもの。ときにはワニやゴリラに舌鼓を打ちながら、青年たちは怪獣との出会いを夢見つづけるのである。のちにノンフィクション作家となる高野秀行の学生時代の著作だが、闊達で楽しい筆致はさすがである。
愚行と笑い飛ばすのは簡単だ。でもここには、それに全てを懸ける若者がいて、まぎれもない青春の物語になっている。スケールこそ違え、あなたもこういう「愚行」に青春時代の時間と情熱を蕩尽したことがあるはずで、それを切なく思い返すことがあるはずだ。ね、そうでしょ?(紺)