1ページ目から読む
3/3ページ目

高校受験が子どもたちから奪うもの

 逆に、世間体にとらわれず、わが子の頑張りを100%認めて誇らしく思える親なら、発達がゆっくりな子どもでも、中学受験をさせてもいいと私は思う。

 現在、私立中学の募集定員総数は中学受験生総数とほぼイコールで、“どこかには入れる”。そこで得られる中高一貫という環境そのものに、学校の “偏差値的レベル”にかかわらず、思春期の子どもにとっての大きな意味がある。それが、中学受験をすることで得られるものであり、高校受験が子どもから奪うものである。

 再びピアジェによれば、14〜15歳で「形式的操作の組織化の時期」に入り、いよいよ「哲学」ができるようになる。だからこそ反抗期も現れる。

ADVERTISEMENT

 この時期には、たくさんの冒険をして、たくさんのひとに出会い、たくさんの失敗をして、たくさんぼーっとすることが大切だ。それらの経験を通して、世の中を知り、自己洞察を深め、子どもは大人になっていく。紙と鉛筆だけで受験勉強ばかりしている場合ではない。

©iStock.com

欧米先進国のほとんどでは高校受験がない

 つまり、反抗期と高校受験の両立は難しい。多くの子どもはなんとかその状況を乗り切るが、中には両立がうまくいかない子もいる。潜在能力は高いのに反抗期ゆえに力が発揮できなかったり、逆に受験勉強に追われてこの時期に学ぶべき人生の基本をおろそかにしてしまったり。

 欧米先進国のほとんどでは、高校受験がない。ハリー・ポッターは、日本でいうところの中高一貫校に相当する学校に通っている。まさに少年が大人になっていくための冒険の舞台である。その代わりイギリスのエリート層は、小学校高学年で猛勉強する。

 ちなみに2017年に漫画化されベストセラーとなった『君たちはどう生きるか』の主人公で14歳のコペル君も、戦前に中学受験をして、いまでいうところの中高一貫校に相当する環境で、高校受験にわずらわされることもなく、ときには不登校になったりしながら、じっくりと「哲学」することができたのだ。

 この大切な時期の大半を高校受験勉強に費やしてしまうことのリスクを、桜木さんは、中学受験のリスクと対比していない。これが「ピアジェ理論を前提に、中学受験の是非について述べよ」という小論文課題なら、大幅減点だろう。

たかだか中学受験で人生が決まるわけがない

 だからといって私は絶対的に中学受験を推奨するわけではない。地域の教育文化、親の教育観、家庭の事情によって、それぞれに判断すればいいことであって、教育における選択に「正解」などない。ましてや、たかが中学受験をするのしないので、人生の幸せ・不幸せなど決まるわけがない。桜木さんもそんなことは百も承知で、編集部が煽っただけだとは思うが。

 教育における選択では、「何を選択したか」よりも「なぜそれを選択するのかを説明できること」、そして「選択したあとにそれを良い選択にする努力を怠らないこと」が大事である。その意味で、拙著『受験と進学の新常識』は、親として、親子の選択の意味を言語化し、自信をもって子どもを応援できるようになる一助となるはずだ。また、中学受験のリスクを少しでも減らす方法は12月10日発売予定の新刊『中学受験「必笑法」』にまとめてある。

中学受験「必笑法」 (中公新書ラクレ)

おおた としまさ(著)

中央公論新社
2018年12月7日 発売

購入する