屈強な面々の陰に「巻き込まれおじさん」の姿が
大嶋 今年は、キャラ立ちの強い屈強なおじさんたちの陰に「巻き込まれおじさん」もたくさんいましたよね。「けがを目的とした指示はしておりません」と語った日大アメフト部の井上(奨)コーチ(当時)とか。
鹿島 加計問題で「記憶にない」を連発した柳瀬唯夫元首相秘書官もそうです。みんな、彼らが真実を語っていないというのは分かっているんですけどね。僕の中ではベスト級なのが、森友学園文書改ざん問題をめぐって、矢面に立たされた財務省の太田充理財局長。「いくら何でも」おじさんですね。
鈴木 いましたね。自民党の議員が太田さんに対して「増税派だからアベノミクスを潰すために、安倍政権を陥れるために意図的に変な答弁をしているのではないですか」と質問して……。
鹿島 「それはいくら何でも、それはいくら何でも」。これは今年を象徴するいい言葉だなと思います。太田さんも100パーセント被害者というわけではなくて、何かを守っているかもしれないんですけど、そのせめぎあいの中で出てきた言葉でした。太田さんからは人間らしさを感じられて、良かったですよね。佐川(宣寿)さんには愛嬌がなかったから。結果、太田さんは主計局長に出世しました(笑)。
――2018年といえば『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)も人気を博しましたが、いかがでしたか?
おぐら 「ジェンダーレス」と「おっさん」という、最も遠いところにある新旧の価値観を融合させて、しかもそれが地上波のテレビドラマで、失敗することなく熱狂を生んだのは、快挙と言っていいと思います。
鹿島 まあ本物のおじさんは、このドラマにも、全国的にウケた理由にも気付いていないと思いますが(笑)。
鈴木 この間、一応Amazonプライムで観ました。田中圭の33歳を「おっさん」としているけど、あれは幻想ですよね。新入社員からはおじさんみたいに扱われている設定で、33でおっさんとか言われても……とは思いました(笑)。最長老が吉田鋼太郎なんて、あんな格好いいおじさん、その辺にいないですし。
大嶋 全体的に、若すぎますよね。つるつるしすぎているというか。
おぐら 今はまだプロトタイプを作っている段階なので、いきなりリアリティを突き詰めて敬遠されるよりも、現実離れしていようがまずは理想形を提示して、世間に受け入れられることが優先ですよ。
――選考会としては、現実路線のおじさんを対象とするということで(笑)、後編に続きます。
写真=鈴木七絵/文藝春秋