最大の理由は責任から逃げたこと
頭の下げ方もいけなかった。内田氏は「誠に申し訳ありません」と謝罪したものの、ピシっとした姿勢から頭を下げなかったことで中途半端な印象。栄氏は謝罪しながらも視線を上げることがほとんどなく、あっさりと頭を下げただけ。上下関係の厳しい世界で権力を持つオジサンは、常に頭を下げられる側の存在であり、勝負の世界で頭を下げると、負けを認めたような感覚になるのだろうか。彼らは、頭を深く下げるのを無意識に避けようとしたのかもしれない。
問題点を上げればキリがないが、謝罪会見が失敗した最大の理由は誰にでもわかる。彼らが責任から逃げたことだ。株式会社でいえば「エントレンチメント」が起きているようなものだ。エントレンチメントは、「塹壕で陣地を固める」、「身を隠す」という意味から、経営者による保身行動のことを指す。
過度な権力集中とその長期化で、トップにモノを言う人間が周りにいなくなると、エントレンチメントが起こりやすい。組織構造が違えども失敗や間違いを認めたくない、悪者にはなりたくない、権力や立場を手放したくないというオジサンたちの心理はどこも同じで、責任逃れや自己保身に走ることになる。会見では自分たちが持つ権力やパワーをネガティブな方向へ印象づけたことで、信頼に足る人物とは思われなくなった。彼らの評判やキャリアは地に落ちていく。
潔く言い切っていれば……
「文書でお答えしようと思っている」
最初の会見で、内田氏はタックル指示に「弁解はしない」と言いつつ回答を避けた。だが、あの試合後のオフレコでは「やらせたのは俺だ」と言ったと報道されている。ピンクのネクタイをしていようと、直接指示していなかろうと、堂々と胸を張って「やらせたのは私です」と潔く強く言い切っていれば、会見の印象も状況も変わっていただろう。そういう指導者になら、逆に、任せてもいいと人は思うものだ。
過ちは過ちとして認めて謝罪し、その上でそれが強豪校に勝つため、選手たちに気合いを入れ鼓舞するためだったと、簡潔に力強い口調で説明していれば、それが間違っていても、自分のやり方や指導に責任と信念を持つ人物だと印象づけられた。なのに彼は、「わからない」「覚えていない」と弁解を繰り返した。人が指導者に対して望むものを、内田氏は見誤った。