横浜市営地下鉄「港南中央」駅から徒歩5分、横浜少年鑑別所と横浜刑務所を通り過ぎれば、その奥に横浜拘置支所がある。性犯罪者と面会をするのは初めてのことだった。
道路に面した受付で、面会用紙に必要事項を記入し、数字が入ったバッジを渡されれば、私は番号で呼ばれる人間となる。スマホ、パソコン、録音機器の類をロッカーに預けなければ、拘置所構内には入れない。
金属探知機で背中と正面を検知され、面会用紙を持って拘置所内の待合室へ。窓口の刑務官に用紙を渡し、番号が呼ばれるのを待つ。
女性である私が、女性の敵である性犯罪者に会う。ここにきてもなお、逡巡がないと言えば嘘になる。そもそも知人女性の存在がなければ、私はこの待合室に座ってはいない。
被告の名は、栗田良文(36)。2016年6月、電車内で泥酔していた女性を自宅アパートに監禁、わいせつな行為を行ったとして神奈川県警相模原署に逮捕された。「お姫様抱っこ監禁事件」として、マスコミを賑わせた男だ。
「あっ、良文くんだ!」
逮捕を報じる映像を見た瞬間、女性はすぐに気づいた。「あっ、良文くんだ!」。児童養護施設職員だった当時、彼女は2歳から3歳の栗田を担当していた。
「あの子は乳児院から施設、里親、そして施設とずっと社会的養護の場で育ったの。なぜ、誰も、彼の問題に気づけなかったの?」
彼女は自分の責任として、家族に内緒で栗田への面会や差し入れを続けていた。その姿に率直に感銘を受けた。と同時に、なぜ、栗田は性犯罪者となってしまったのか、事件の本質といえるものに、社会的養護の取材を長年続けている身として、何とか迫れないものか。そんな思いで、硬い椅子に座っていた。