「里親は最初からしつけ。怖かった」
産院から乳児院、2歳で児童養護施設へ。5歳の時に、水野家に里子として引き取られた。栗田が言う「生い立ち」の核にあるのが実母でも施設でもなく、水野家(仮名)だった。
「オレはお父さんとお母さんができるのがうれしかった。自分の家があるのも。だけど、そうじゃなかった。最初からしつけ」
――どこの里親さんもまず、愛情をたっぷり注ぐところから始まるけど。
私が里親取材から得た経験だった。栗田は一瞬すがるような眼差しを向け、首を振った。
「指しゃぶりとか箸の持ち方、納豆にはネギを入れろとかいちいち厳しく言われ、時にピシャリと叩かれた。父からは暴力。怖かった」
里子の姉と兄は水野姓を名乗って生活しているのに、自分は栗田のままだった。
「1対4のようですごく寂しかった。母が『おまえには水野を名乗らせない。15歳で施設に戻す』って低学年からずっと言われ、そんなこと言わないでよーって、お願いしてた」
髪の毛に惹かれたのは5歳の時
不安定な環境で、栗田が惹かれたのが髪の毛だった。始まりは、5歳の時。
「施設から水野家に引き取られる時、駅のホームでベンチに座っていた黒髪のロングヘアーの女性の髪を、オレ、触ったの。水野の母にすごく怒られて、でも、その女性は子どもだからとそれで終わり。今でもはっきり覚えてて。それからはお姉ちゃんの髪とか、ずっと触っていた。人形の髪の毛を切ったり……」
ぽつりぽつりと栗田は話す。
「電車で、寝ている髪の長い女の人のところに行って髪を触る。棒に股間を押し付けて。母に目撃されたこともある。これが、小3か小4。小5からは夜、塾に通うようになって、車内で女の人を探して髪を触った。その頃は性の知識はなくて、精通も牛乳かなーって」
ある出来事をはっきり覚えている。
「その人は酔っ払っていたのか、ずーっと触っても全然起きなくて、こんなにうまく行くんだ! というのが衝撃で、ここが原点かも」
小3で女子の髪を切って大問題となり、高学年では女子のコートやハンカチを盗んだ。
「コートやハンカチを床に置いて、匂いを嗅ぎながら股間をこすりつけて射精した」
中1で4人の女子のジャージの上着を盗んだことで水野家を出され、施設に戻された。
「オレは大泣きして、家に帰りたいって訴えた。でも両親は『もう面倒はみられない。私らは関係ない』って。オレ、ずっと大泣きして……。信じられなかった。帰りたかった」
――厳しくて居づらかった家なのに、なんで帰りたかったの?
返ってきたのは、たった一言。
「やっぱり、家族だから」