「100%の確率で、持ち帰りできた」
中学は施設内で男だけの環境だったので何もなかったが、高校に通うようになり「電車行動」は再開、それは社会人になってから逮捕時まで続いた。髪や胸を触るだけから、自宅に連れ帰るようになったのは20代後半。
「同業者がいっぱいいるの。ある日、連れ込んだホテルの映像を見せられて、こういうのもアリだと。連れ帰るなら家がいいと俺は思った。そのほうが危険じゃない」
きっかけは、精神科医から処方された睡眠薬を手にしたこと。泥酔している女性の横に座り、酔い止めだと言って薬を飲ませる。
「100%の確率で、持ち帰りできた。不特定多数の女性とすること自体が、快感だった。犯行はもう、何というか機械的。そういう頭になっている。やらないと落ち着かない」
生い立ちには饒舌な栗田が、犯行を語ることにためらうのは、私が女性だからか。
「週末、始発に乗る。たとえば横浜駅で見つけたら、薬を飲ませて大船方面へ行く。薬が効くまで、15分から30分はかかるから。薬が完全に効いたら、横浜方面へ引き返す。引きずって横浜線に乗せて、最寄り駅へ行けば、駅員に車椅子を用意させて、あとはタクシー。結構、大変なの、引きずるの」
同じ運転手に5回遭遇、住所を言う必要もなくなった。癖っ毛を神経質に指でいじりながら、薄ら笑いのまま、もごもごと話す。
「最初は服も脱がせず、髪の毛だけ。撫でて匂いを嗅ぐ。あと、ブラの上から胸を触る。マスターベーションも毎回ではなく、画像を撮って後でする。300人連れ込んで、SEXしたのは20人ぐらい。意識を取り戻した女性は『ありがとう』と言って、トラブルはほぼない。駅まで歩いて送って行く。探して連れ込んで帰すまでの、一連の行動が快楽だった」
女性たちは警察で画像を見せられ、自分が何をされたかを知り、衝撃を受ける。裁判では終わりなき苦しみと心の傷について、被害者9人それぞれの思いが明らかにされた。
「オレが被害者に謝罪すべきだと思いますか?」
公判終盤に行われる「被告人質問」直前の面会で、栗田は強い口調で聞いてきた。
「黒川さんは、オレが被害者に謝罪すべきだと思いますか?」
――やっぱり謝罪は必要だと思う。それをしないと、聞く耳を持ってもらえない。
弁護人は弁解するな、謝罪しろという方針だった。吐き捨てるように栗田は言った。
「だから、今もやりたい気持ちがあるのに、それで謝罪しても、被害者は納得しないっしょ? 治療しないで形だけの謝罪をしても、意味がない。被害者の傷がラクになるのは、オレが死ぬしかない。でも、自殺できるかどうかはわからない。オレが一番言いたいのは、治療してほしいってこと。刑期を短くしたいんじゃなくて」
判決は懲役15年、栗田は控訴した。
今でも栗田は、水野家へのこだわりを面会室で繰り返す。被害者の苦しみを、栗田はどれほどその身で感じているのか、未だ栗田は「なぜ、髪の毛なのか」と、生い立ちへの理解を求めるばかりだ。
(#2に続く)