#1より続く)

 何の変哲もない縦長の白封筒に、極端に小さな文字で、封筒の右端ギリギリに住所、郵便番号欄の左端の下に私の名が書かれている。名前が大書してあるはずの封筒中央が空白という奇妙な封筒が今、手元に10通ほどある。

 差出人は栗田良文、36歳。横浜拘置支所から送られてくる手紙には、便箋の端に赤い桜のスタンプが押されている。検閲済みの証だった。

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栗田被告から届いた手紙 ©文藝春秋

「死ぬ」ことでしか、償いはできないのかな

 栗田は2016年6月、電車内で酔った女性を自宅アパートに連れ込み、わいせつ行為をしたとして逮捕され、18年11月、懲役15年の一審判決を受けた。法廷で栗田は、犯行は「髪の毛」への執着によるものだと語り、裁判所が行った精神鑑定では「フェティシズム障害」という結果が出ている。

 癖のある文字は読みにくく、慣れるまで判読不能のものもあった。最初の手紙にはこう認められていた。

〈今も被害者に言えることは少ないし、『ごめんなさい』と言えていない。自分で気持ちはある。けど、それを言うのは早いと思う。口先で謝ってそれが何になるのか……。楽な道を行くだけではないか。基本は『死ぬ』ことでしか、償いはできないのかなというのがあります。与えた傷は消えないし、一生残るものを与えてしまった。今後の人生かけて自分で考えて行くしかないです。許されるとは思っていないし、そこはずっと考えているところです〉 

逮捕から2年、一貫して訴えていること

 逮捕から2年、一貫して訴えていることがある。

〈僕の主張は水野家(仮名・里親)と髪の毛です。裁判では事件(のこと)がメインになって、自分で話すことができない〉

 3回目の手紙で、栗田は実親について触れた。

〈自分が引っかかるのは実親のこと。生まれてすぐ捨てられたことによって、母親に対する愛情とかが不足した。もともと実親がSEX好き、男好きであって、自分は未熟児で、産んではいけない身体だったとも聞いた。自分が女性とか髪の毛に、全ての気持ちが行ってしまったこととどんな関係があるのか?〉

 しかし実母より、栗田がこだわり続けるのが、里親の水野家だった。産院から乳児院へ、2歳で児童養護施設に移った栗田は5歳の時、里親家庭の水野家に引き取られた。養育里親である水野家には、18歳まで里子を育てる役割がある。既に10歳近く年の離れた、里子の姉と兄がいた。

〈初めてできた家族で、これが自分の家で家族だと感じて、何もかもが嬉しかったんだと思う〉

 しかし、その家で行われていたのは、「条件つきの愛」とでもいうべきものだった。

〈両親は、『いつ家を出てもいい。警察の面倒になった時は施設に戻す。私たちの子供ではない』と姉、兄、僕に話していた。僕には小学校低学年のときに『名前は変えない、15歳で施設に戻す』と言われた。もともと能力がなくて、表現力とか言葉力がなかった僕にそれを話して、良い子になりなさいって……。なぜ、子供にそれを言わないといけないのか〉