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産後「企業にぶらさがる」女性と「モチベーションを維持する」女性は何が違うのか

「産後ケアをすべての家族に」マドレボニータ創業者・吉岡マコインタビュー#2

2019/01/09

行政のみに育児インフラを頼るのは限界

――育児支援というと「行政がやるもの」という考え方が当たり前にあると思います。企業が育児インフラの担い手になるという考えはどのように発想されたんですか。

吉岡 インフラというと、一般的にはまず行政を考えると思うんです。もちろんそこもとても重要なのですが、産後ケア予算はまだ全然少ないし、予算があっても啓発が足りてないから一部にしか有効活用されていないのです。

 でも今、子どもも減っていく中で、行政だけがインフラになるということには限界があります。そう考えると、企業の場合は社会貢献じゃなくて、もうチェンジ戦略なんですよね。例えば80万円で30人の社員が辞めずにモチベーション高く、離婚やうつなどにも至らず長く働き続けてくれるのならば、社員への“投資”にもなると思います。私たちが推奨しているわけではないのですが、適切な産後ケアに取り組めた人は早くに職場復帰する傾向にあるので、そうすると企業側にはコスト削減にもなる可能性もあります。

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「予算80万円でできることはありますか?」

――どんな企業が取り入れていて、どれぐらいのコストでできるものですか?

吉岡 例えば外資系IT企業はもう2年このプログラムを導入してくださっていますが、最初は半信半疑のご様子で(笑)、「予算80万円でできることはありますか?」と言われました。そこで、育児休暇中の社員30人がお住まいの近くの産後ケア教室に参加でき、社内では、男性も含め30〜100人規模の集合研修を提供するパッケージを作りました。

 今年は予算をさらに上乗せしてくださって育児休暇中の社員が40人ぐらいに増えたのと、男性社員の配偶者にも受講料を補助するよう枠を広げてくださったんです。配偶者の心身の状態が良好か否かというのは雇用側からとしても重要なことですよね。

 

――その方々はもう職場復帰されているんでしょうか? 感想もあれば伺いたいです。

吉岡 まだ2年目なので、職場での状況というのは追跡し切れていませんが、受講後の感想を頂いています。手前味噌なのですが、「母親が身体共に健康であれば、子ども、家族へも好影響があると思う」「自分の仕事に誇りを持ち頑張っているワーキングマザーと知り合えたことで、目の前の仕事ときちんと向き合って成果を出す。そんな当たり前なことに気づかされ、その積み重ねの先に、子供に誇れる仕事をしている自分があるのでないかと思えた」と、皆さんからはプログラムを受講させてくれた企業への感謝の声が聞かれました。

 

――ほかにも導入されている企業があるのでしょうか? また、今まで、何人ぐらいが参加したのですか。

吉岡 株式会社商船三井、ソシオネット株式会社、株式会社JALサンライト、一般社団法人パレット共済会など、他にも福利厚生として取り入れてくださっている企業もあります。企業経由での産後ケア教室の受講者数は直近1年間で112人です(受講料補助、福利厚生代行業経由での利用含む)。この1年の参加者数の5%に当たりますね。私達が企業に伺って座学やワークショップをする形で受けてくださった方は170人です。

 導入企業からは、「企業では難しい育休中という時期のフォローができる」「復職時に抱え込み過ぎずかつ力を発揮するためのネットワークづくり、環境整備ができる」「優秀な人材の獲得につながる」などの感想を頂いており、企業が産後ケアに取り組むことは、人事戦略になりうるのだと感じています。