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「子どもが第一」という圧力を超えて、母親に産後ケアが必要な理由

「産後ケアをすべての家族に」マドレボニータ・吉岡マコインタビュー番外編

2019/01/10
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母親のケアと子どもの世話を同時にすることの大切さ

 印象的だったのは、「マットの上の赤ちゃんを気にかけながら、自分の身体にも意識を向けてくださいね」というインストラクターの声掛けだった。母親たちは運動しながらも、途中で泣き出した赤ちゃんのオムツを替えたり、抱いたり寝かせたりと、忙しく動いていた。

 

自分のケアをするなんて、母親失格だとすら思っていた

 育児が始まると、子どもを見ながら家事や身の回りのことを行わなければいけない。だから産後間もない時期に受けるこのプログラムの中で、「子どもの世話をしながら、自分自身のケアも大切にする」という感覚を体得するのは、非常に貴重な経験になるはずだ。なぜなら、産後うつになった経験のある筆者は、子どもを産んだら、子どもの世話しかしてはいけないと思っていたからだ。自分の体のケアなんて考えるのは母親失格だとすら思っていた。子どもの世話をしながら自分のケアもしていいと、むしろ母親自身をケアしなければ育児などできないのだと、誰かがあの時教えてくれていたらと思う。

 

女性が本来の力を発揮するため、自身に問う力を身に付ける

 45分間の運動終了後、この教室の特徴の一つである「シェアリング」という参加者同士のコミュニケーションが始まった。参加者同士でペアになって話をするが、「人生」「パートナーシップ」「仕事」の3つのテーマから互いに一つを選び、話す側は3分間ひたすらしゃべり続ける。聞く側は相手の話を遮ったり、アドバイスはせず、聞き取った話のキーワードを用紙に書き入れながらまとめ、その後に45秒間で相手の話を要約する。終了後、交代する。この作業により、自分自身と向き合うことにもなるし、相手の話によって自分の気付きが促されることもある。

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「育児や子どものことはどこでも話せます。ここは『あなたの本当の望みは何ですか?』と自分で自分に問う力をつけてもらうこと、本人の表面化していないニーズを自分でつかむきっかけとして自分自身と対話する場にしています」と吉岡さんは話す。この場では、「〇〇ちゃんの」ではなく、母親になった一人の女性として語り合うのだ。

 筆者が今まで参加した子連れワークショップでは「食事の好き嫌いが多くて大変」「寝かしつけが大変」など、育児の話がほとんどだった。それはそれでグチを吐けてスッキリもするが、自分自身が本心から悩んでいることについて話すわけではないため、グチであってもある種の“予定調和”で成り立つ場だった。相手の領域に踏み込み過ぎることもないし、自分も踏み込ませない。「母親」という共通の仮面の下でしか話をしない。だからママ友の仲の良さも、一定以上にはならなかった。

 

夫に対する嫉妬の気持ちがあった

 シェアリング終了後、参加者からは、「夫に対して『ありがとう』と言いづらい心の底に、好きな仕事をしている夫に対する嫉妬の気持ちがあった」「出産をきっかけに仕事を辞めたが、友人が来てくれたことで『自分のやりたいことを家でやれる方法がある』ということに気付いた」「『夫と話している時間が短い』と話しているうちに涙が出てきて、それほど切実なことだったのだと気づいた」など様々な気持ちが切々と語られた。

 

 もちろん、人前で思いを語ることについて抵抗を感じる人も少なくないだろう。誰もがマドレボニータのエクササイズに共感し、参加する必要はない。ただ、「産後」は身体を休める時間だけでなく、整えたり鍛えたりする必要もあること、どんな女性にとっても大きな転機となるため、心のサポートも必要になるという2つのことは、誰もが持つべき「基本的な知識」なのだ。